第三話「強制的展開」
「・・・だから、あんたみたいなのはただいるだけで危険なわけで・・・」
「沙理奈さん、もうちょっと遠まわしに!・・・でもまああたしの言霊を破ったわけだし・・」
ぎゃあぎゃあ。
・・・俺は憂鬱だ。今日は特に。なんで女二人のマシンガントークにつき合わされなきゃならないんだ?
ここはどこかの事務所らしい。あのサルとの戦闘のあと、気絶した俺をあの女が運んできてくれたらしい。そして今の状況。
「・・・つまり、俺とかそいつが使ってる力が『言霊』って呼ばれるもので、言葉に意識して力を篭めることでモノに働きかけ、魔法のような力を引き出す。ということか?」
いい加減我慢の限界が訪れてきそうなので、話をきっておく。それに反応した二人が、それぞれ声をかけてくる。
「・・あの、その、平気?・・さっきはごめんなさい」
「なんだ、あんた結構飲み込み早いじゃない!それで?どう?あたしたちの事務所に入る?」
・・・こうも正反対の声をかけられると、どっちに反応していいかわからなくなる。とりあえずジャイアンタイプの自己中っぽい大人のほうはほっといて、あの女の方に返す。
「とりあえず平気だけど?・・なんで謝るんだ?・・えっと、鈴音サン」
さっきまでの会話(というか会話という形式を無視した主に沙理奈という女の独壇場)からわかったことはさっきのことと、こいつの名前が「鈴音夏葉(すずねなつは)」だということ。
こうゆう時、社交的でないと苦労する。
「だって、その肩の傷・・」
肩を見たら一応包帯が巻いてあった。
「ああ、気にすんな。すぐに治る」
言うが早いか、俺は言葉を紡ぐ。
「“傷よ、後もなく完治せよ”」
途端に肩の傷がまるでなかったかのように完治する。二人が息を呑んでいた。
ただ、今回は骨までいってなかったから治せたわけだし、この力――言霊だっけか?――を使うと、かなり
疲労するのであまり多用はしたくないんだが。
「ちょっと、このコいま・・」
「でしょ?信じられます?」
二人が急に密談モードに入ってしまった。
「えっと、その、何で俺をここに連れてきたんだ?」
それでも二人は密談中だ。俺はしぶとくもう一度繰り返す。すると、ようやく鈴音のほうが気付いた。
「あ、ごめんなさい。まだ説明してなかったわね。とりあえずあたしたちが何者かってことから・・」
鈴音のあとに沙理奈(戦闘中の電話相手はこいつだったようだ)という大人のほうが続ける。
「あたしたちはアンタみたいに言霊を使える人間たち――わたしたちは言霊師と呼ぶけど、それの集まりよ。
と、いってもあくまで個人レベルだけどね。目的は力を使えるものの保護、それからスカウトと、
さっきあんたが戦った『言禍霊(ゲンカレイ)』って呼ばれてる化け物の退治。あんたを連れてきた理由は
一番目の目的と、肩の治療のため。わかった?」
なるほどね。
「それで?保護したらどうするんだ?」
「別に、力の使い方が間違ってなければどうもしない・・」
と、沙理奈がしゃべりかけた鈴音の口を押さえる。
「力が使える時点で犯罪者並みの扱いを受けることになるよ。けど、わたしたちみたいにそういう人たちの
集まりに加わって、言霊師として登録すればそういったこともなくなるわよ。どう?わたしたちの仲間に加わらない?」
理論としてはおかしくないが、タイミングが悪すぎだ。鈴音の言葉をもっと前から止めとくべきだったろう。
「断る」
「よし!!そうなったら登録用紙にサインを」
「アンタいま俺の話聞いてたか!?」
見ると鈴音が疲れきった表情をしていた。おそらくいつもこうなのだろう。
「断るといったのが聞こえないのか!!?」
沙理奈が鬱陶しそうにこっちを向く。
「だめよ。拒否権はないわよ。」
「ふざけるな!」
「うるさいわね〜!“術者、佐藤沙理奈が命ずる。深月龍哉よ、我が言に従え”!」
・・・・・なんだか気持ちよくなってきた。あのヒトに逆らう?・・何いってんだ。ばからし・・・・
ちょっと待て!!危うく支配されそうになってた!
「く・・・“断る”!」
俺の言霊が沙理奈の言霊を打ち消す。途端に沙理奈の表情が驚き、そして魔女のような邪悪な笑に変わった。
「そう・・・あくまで抵抗するのね・・。なら実力行使よっ!!!」
・・・・・・・・・・・・
待て待て待てーーーーーーーー!!!!
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言霊へモドル