第四話「真名」
俺は憂鬱だ。それというのも・・・
事務所内は戦場と化していた。書類が、椅子が、花瓶が、灰皿が、枕が、お菓子が、デスクが、その事務所内にあるすべてのものが、俺を殺そうと願う狂器(?)と化していた。
元凶はあの女・・・
「ちょっと、沙理奈さん!落ち着いて!掃除が大変になるじゃないですか!」
鈴音夏葉が佐藤沙理奈を抑える。・・・・とゆうか俺の命の心配はナシか。
「うるさいわね〜!掃除なんかあとで宗治狼にやらせりゃいいのよ!」
と、馬鹿が俺への攻撃をますます強める。夕方の戦闘と、さっきの言霊が体に響いてて、満足に動けない。俺の頬を灰皿がプロ野球選手のストレート並みの速さでかすめていく。
・・・やばいな。本気で来世のことを考えた方がいいかもな。
・・・・・・・・・・・
「“飛べ”!」
飛んできていたデスクを、俺の言霊で飛ばした椅子が破壊する。
沙理奈が怒鳴る。
「ちょっとアンタ!それいくらすると思ってんの!?弁償しなさいっ!むしろその弁償のためにわたしたちの事務所ではたらけっ!」
むちゃくちゃな論理だ。お前も物を破壊してるだろうがっ!
「“術者佐藤沙理奈が命ずるっ!深月龍哉よ、あたしにしたがえっ!”」
うおっ!隙を突いての言霊っ!見事な不意打ちっ!
・・なんて誰が言うかっ!!
「“断るっ!!”」
再び(何回目だかもう忘れた)相殺する。不意打ちもここまで何回もやるとさすがに不意打ちじゃない。
「あ〜〜も〜〜う!こうなったら真名を使うか!」
「沙理奈さん!落ち着いてってば!!」
真名?何のことだ?と、必死に沙理奈を止めてた鈴音が沙理奈に吹っ飛ばされてくる。
・・・・おーーい、仲間じゃないのか〜〜?
「なあ、鈴音サン、真名って何だ?」
うまくソファーがクッションになって着地した鈴音に聞いてみる。
「・・・ん、あ・・えっと人の真の名前って言えばわかる?」
俺は首を振る。相変わらず沙理奈の攻撃は続いているが、俺と鈴音は一応安全域に入ってるので、頭上を花瓶とかが飛んでいくのが見えるだけだ。
「ん、っとね、人は生まれたときから名前を持ってるんだけど、それは知らないのよ。それで、親に名前をもらうわけだけど、それが普通の名前で・・」
説明にならない説明をどうもありがとう。だが、思い当たる節があったので、一応理解できた。
「月読之龍神のことか・・・」
「へ?」
鈴音が疑問符をあげる。
つくよみのたつみかみ
「俺の真名。月読之龍神って言うらしい。」
鈴音が驚く。
「何であなた、自分の真名を・・」
「へ〜ぇ、いいこと聞いちゃった。」
みると、いつの間にか沙理奈が頭上にいた。
「“術者佐藤沙理奈が命ずる!月読之龍神よ、我が命に従え!”」
くそ!またこれか!いちいちうざ・・・・
カチン
・・・・あれ?俺何してんの?
「あなたはあたしの事務所に入る。いいわね?じゃあこの書類にサインを。」
ほいほい。書類には俺の名前や住所が書かれている。その下に俺は「深月龍哉」と書いた。
「ハイ、ご苦労様〜〜♪・・・“解けよ”」
カチン
鍵が開くような音がして、俺は一瞬立ち尽くす。次にさっき自分がしたことを思い返してみる。
「・・・・・あああああああああああ!!????」
間違いない。俺は自分でサインをしていた。
沙理奈はにやけ顔で書類を持っていく。鈴音がため息をつく。
「ごめんなさい。まさか真名は知らないだろうと思ったから安心してたんだけど・・・・真名ってのはね、相手に知られると、言霊を使われたときに抵抗できなくなるのよ。・・・さっきみたいに。」
・・・・・・・・・・・・・・・
そーーゆーーことは先に言えーーーーーー!!!!!
かくして俺は普通の日常に終わりを告げさせられた。
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言霊へモドル