第五話「事務所の面子」




俺は憂鬱だ。なぜだか知らんが破壊された(沙理奈が破壊した)事務所の片付けを手伝わされたからだ。

時間は8時を回っている。鈴音に連れてこられたのが5時半ごろだったから、当然といえば当然だが。

で、いまは何をしているかというと、へばってソファーに横になっているところだ。

原因は言霊の使いすぎ(だと信じたい)。今日は連発しすぎて疲れているのだ。

鈴音はまだ片付けているし、沙理奈はなにやらパソコンとにらめっこしている。

と、事務所のドアが開く。

「ただいま〜!!」

「遅くなってすいません」

「・・・・沙理奈さん、何やらかしたんだ・・・・?」

三人の男が入ってきた。一人は子供。おそらく中学一年ほどだろう。

あとの二人は、誠実で優しそうな大人の人と、おそらく高校生であろう青年だった。

「おかえり〜、武、それに隼さん。二人とも巡回だったんでしょ?拓実さんとはどうしたの?」

鈴音が拓実(たくみ)と呼んだ大人が答える。

「私の仕事帰りにあったんですよ。それで一緒に」

今度は高校生が口を開く。コイツがどうやら隼(はやと)のようだ。

「で、この有様ってことは・・・」

「はい・・・・」

どうやら沙理奈は日常でもこうらしい。

残る中学生が俺に気付く。

「あ・・・・龍哉さんじゃないですか!なんでここに?」

俺を知ってる?・・・武・・・タケル・・・たける・・・・・・・・・・思い出した。
    すずねたける
「お前、鈴音武か、テニス部の」

そう、コイツは俺たちと同じ中学校の一年で、俺と同じテニス部だったやつだ。

なぜ知ってるかというと、三年最後の大会のとき、俺がダブルスで出ざるを得なくなったときがあった。(ちなみに普通はシングルスで出る。理由は組みたがるやつがいないから)

そのとき、三年や二年は俺と組みたがらなかった(当然といえば当然だが。俺は学校では近寄りがたい人的イメージだし)のだが、コイツだけは組もうとしてきたのだ。

小学校のとき、テニスで結構すごかったらしく、戦績もいいところまで(準優勝)いったのだ。

そんなこんなで知り合った仲だ。

「もしかしてお前、コイツと姉弟か?」

俺は鈴音――もとい、夏葉のほう――に問う。

「そうよ。知らなかったの?」

俺は内心かなり驚いていた。今度は隼が話し出す。

「何で部外者がいるんだ?・・・・って、もしかしてお前を助けたってのが・・」

「ハイ、彼です」

そこでようやく俺に対して話しかける。
                                         つだはやと
「お前、名前は?見たところ夏葉や武と同じ中学のようだけど。俺は津田隼」

「俺は深月龍哉だ」

隼は俺のぶっきらぼうな態度に不愉快そうな顔をしたあと、笑顔に変えて握手を求めてきた。

俺は拒否するのもだるいので上半身をもたれかけたまま応じる。

「あっ、みんなお帰り〜」

ようやく沙理奈が気付く。みんなはそっちのほうを向く。

「ハイ彼に注目。彼にはわたしたちの事務所に入ってもらうことになったから」

「また沙理奈さん、彼に言霊かけたんじゃないんですか?」

と、拓実。いいぞ、常識ある大人だ!

「そんなことはどうでもいいの。というわけで、みんな異論はある?」

ありすぎるほどにあるわっ!!

俺は内心だけでつっこむが、ほかのやつらは思い思いの反応を示していたものの、反対はしなかった。多分沙理奈に逆らうとどうなるかわかってるからだろうが。

「じゃあ、改めてよろしくお願いします、龍哉先輩」

「私も、よろしく」

と、鈴音姉弟。

「まあいろいろ大変だろうケド、よろしくな」

と、苦笑しながらの隼。

「何かわからないことがあったら、何でも聞いてくださいね。私たちはあなたを歓迎しますよ。
                       すぎむらたくみ
ああ、自己紹介がまだでしたね。私は杉村拓実です。よろしく」

と拓実。

俺はため息をつきつつも、なんとなく悪い気はしなくなっていた。

「よろしく」




第六話へ





言霊へモドル