第九話「戦闘」




・・・・・・・・・

目をつぶった武が、恐る恐る目を開けたとき、その目の前に広がっていたのは、血の海でもなく、倒れる姉でもなく、

―――姉の前で硬直している、カラスの姿だった。



「・・・・っはぁ、まに・・・ふぅ、間に合った・・・」

後一秒気付くのが遅ければ、間に合ってなかったかもしれない。

・・・・確か、こんなこと昨日あたりなかったっけ?

「・・・あなた、省略して言霊をつかったわね!」

硬直から解けた夏葉の第一声。

・・・・それが命の恩人(よく考えたら二回目)に対する言葉か?

「仕方ないだろう。グダグダ言ってる時間がなかった」

夏葉が止まっているカラスのしたから抜け出す。その表情は、顔を赤くした、怒り。

怒られると思った俺は、しかし、予期せぬ言葉に驚いた。

「・・・まぁ、今回は許す・・」

俺はほっとしたが、表情には出さない。喜怒哀楽を、表情に表すことが恥ずかしいのだ。

まあ『怒』と『楽』ぐらいは少し出すかもしれないけど。武のほうを見たら、意外そうな顔をしていた。

「けど、次やったら怒るからね」

俺はそうゆう夏葉を引き寄せる。

驚く夏葉、だが、俺と武の注意は別のほうに向いていた。

俺の言霊に、カラスの言禍霊が反発してきている。

「“深月龍哉が命ず。汝、ほろ・・」

だめ!という声とともに、夏葉が俺の口を押さえ、続きを言わせない。

「滅びの言霊は使っちゃだめって言われたでしょ!?」

「なんでだ?」

「とにかく、諸所の事情でだめなの!エアガンに言霊をかけて・・・」

   パキン

ついに俺の言霊が解け、カラスが動き出す。すかさず武が二丁銃で打ち込む。

しかしカラスは防御を無視、突っ込んできた!

「“我、命ず。大地よ、防げ”」

俺が地面を隆起させ、突進を防ぐ。岩の壁にぶつかったカラスは、再び宙を舞い、闇に隠れた。

ぎりぎりまで省略した言霊。夏葉が何かを言おうとするが、目で黙らせておく。

ここは戦場だ。余計なおしゃべりなどしていられないと、体が感じていた。

初めて味わう、戦い。漫画や映画なんてものとは、スケールが違う。

互いが互いを殺しあおうとする、命の取り合い。闇から攻撃してくる奇襲者。

俺は内心恐怖していた。さっきの夏葉のことにしてもそうだ。

もう、人が死ぬのを、俺の目の前で死なせるのを、見たくない。

そして、おれ自身も死にたくはない。

「“術者、深月龍哉が命ずる。汝、敵を破壊する銃弾と化せ”」

BB弾に宿る言霊、否、俺の力。

次の瞬間武が反応、俺が横っ飛びざまに体を捻り、発砲。
                               うが
俺の後ろにきていた奇襲者の顔面を武の二丁銃が穿ち、その羽を俺の破壊の光弾が貫く。

俺の銃から出た破壊の光に、鈴音姉弟が目を丸くする。

だが、奇襲者はまだ生きていた。懲りずに今度は夏葉へと向かう。

「ドンマイ、姉ちゃんを狙ったこと、あの世で後悔しなよ。」

武の言葉とほぼ同時に、夏葉が何事かをつぶやき、そして沙理奈のような氷の笑顔を見せる。

「さようなら〜〜」

夏葉の銃から出たのは、極大の雹弾。それの乱射をまともにくらって、カラスはもだえる。

しかし、それで終わりではなかった。次の瞬間、カラスは止まった。

内部から氷柱が出て、カラスを串刺しにし、氷漬けにする。

最後に、俺の光弾が氷像となったカラスを破砕した。

戦いは終わった。

・・・・・・・俺は密かに、言霊師になったことを後悔した。




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