第十一話「やって来た冬」




俺は憂鬱だ。理由は・・・・・言いたくもない。

12月、つまり学期末、中学、憂鬱、とくれば、

「龍哉、テストどうだったよ〜?」

ズギュ――――ン!!

・・・・忘れようとしていたのに。

そうだ、期末テストだ。中三の進路を決めるといっても過言ではないテストだ。

「俺の点数みたいか?ん?ん?」

目の前で馬鹿が自慢を始めている。

卓弥―磐橋卓弥―は、この学校でも3位以内に入る秀才だ。その癖に性格は悪い。

「で?お前はどうだったよ」

「・・・黙秘権を使わせてもらう」

「ふーーーん」

と卓弥が後ろを向く。俺が油断した次の瞬間、高速反転し、答案用紙をかっさらった!

「ほうほう、フ〜〜ム。なるほどねぇ」

ニヤニヤしながら俺のテストの答案を見る卓弥。スリーパーホールドを決めている俺。

だが左手を入れて威力を軽減しているので、まったくといっていいほど効果はない。

馬鹿らしくなって、卓弥がなすがままにさせておく。

「・・・ま、あがってんじゃん。これなら港来高校も何とかなるんじゃねぇの?」

卓弥が答案を俺に返す。

ちなみに卓弥の点数は500点満点中461点、俺は352点だ。

・・・馬鹿卓弥に100点以上の点差がついてるのが、はなはだいらだたしい。

「お、来たか。そんじゃな、龍哉〜〜」

卓弥の友達が来たので、卓弥が去っていく。

俺もそろそろ帰ることにする。




「ねぇ、テストどうだった?龍哉」

校門を出たとたんにまた!!

目の前にいるのは夏葉だ。

こいつも学校で10番以内に入る秀才組だ。

「・・・まったく、どいつもこいつも・・」

「なんかいった?」

「イヤナニモ」

こないだの戦闘で夏葉の本性をちょっと垣間見た気がしたので、それ以来なるべく怒らせないようにしているのだ。

普通にカラスに雹弾叩き込んでるときの夏葉は怖かった。

「そういえば、龍哉ってドコ狙い?」
   こうらい
「・・・港来高校」

「ホント?私もだよ。ちなみに隼さんもあの高校だよ」

「お前だったらもっと上を狙えるだろう」

「そんなことないって」

言いつつ夏葉はどこか遠いほうを見ていた。顔がほんのり赤く染まっている。

たぶんあの隼ってやつと同じ高校に行きたいんだろう。

話しながら、俺たちは事務所へと向かっていた。




「よっ!お二人さん。仲がいいねぇ」

ついた途端に沙理奈の声。真正の馬鹿なのか?

確かに夏葉とは学校で一緒にいることが多くなった。そのせいで、俺に関するそっち系のうわさが流れてきているのは確かだ。

流しているのは、おそらくあの馬鹿だろうが。

この推測ははっきり言って確信に近い。始めに目撃されたのが卓弥で、その後にうわさが広まったからだ。

まあ、大半の奴が信じてないからいいが。なにせ、夏葉は学校で男子の人気度がかなり高い(知ったのは最近だが)。

そんな夏葉が学校で付き合いづらい男で有名の俺と付き合うなんて、考えられないことだからだ。

男子らの言い分は、『鈴音さんがアイツのことを可哀想だと思って一緒にいてあげてたんだろう。なんて優しいんだろう!』だ。

・・・考えるとむかつくが、あながち当てはまりそうなので考えないようにする。

「沙理奈さん、ちゃかすのはやめてくださいよ」

夏葉が言う。

「ごめんごめん♪・・・で?仕事のほうは?」

夏葉はメモ帳を取り出した。

「とりあえず、言われた6体のうち、3体は私たち三人が仕留めました。後残ってるのは・・」

「いいわ。残りの3体はハヤから電話があったから。これで追給金ゲットよ〜〜♪」

あれから半月。俺は学校に通いつつ言霊師としての仕事を続けていた。

結構日常は変わるか、と思っていたが、あまり変わらなかった。慣れてしまってきたからだろうか。

こないだのカラスとの戦闘のあと(後で聞いたが、あれは中の下ほどの実力だったらしい。あのときほど沙理奈を殴り倒したかったことはなかった)

あまり仕事はなく、最近になって雑魚言禍霊6体を倒す仕事が入ってきていたのだ。

俺も戦闘に、少しずつだが、慣れてきていた。

・・・・これっていいことなのか?

「ご苦労様〜〜♪んじゃ、また仕事が入ったら連絡するから」

陽気に笑う沙理奈。俺と夏葉は事務所を後にすることにした。




私は何をしてるの?

何かが私の中に、入り込んでいる。

そいつが私を、私の体を、意思を操作する。

いやだ。やめて、やめてぇ!!

けれど私は、私の意識は、闇に溺れた。

その前に見たのは、いつも見慣れているはずの顔。

少年の、顔。




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