第十ニ話「再びの事件」
俺は憂鬱だった。が、少し元気にもなっていた。
そのわけは、もうすぐ冬休みが始まるからだ。誰だってうれしくなる。
受験のことを考えなければ、だが。
そんなことを考えていると、岸田の声が響いた。
「お〜〜い、深月!きいてんのか?お前ただでさえ数学厳しいのに、聞いてなくていいのか?」
うざい。率直な感想がこれだが、表向きには謝っておく。
隣で卓弥が笑っていた。とりあえず岸田にばれないように突きを入れた。超高速で。
もだえる卓弥。少しだけ気が晴れた。
放課後。玄関。俺は帰ろうとしていた。
そこに、足音。別に玄関なら珍しくないが、俺は足音で誰だかわかるようになっていた。
「どうしたんだ、鈴音さん、それに武」
いちおー学校では夏葉のことを鈴音さんと呼ぶことにしている。うわさの件もあるし。
俺の返答に、夏葉は何も答えずに俺の制服をつかんで、引っ張っていった。
・・・・・・・腕をつかむとかあるだろう。俺は制服のオプションなのか?
放課後で、誰もいない二階奥の特別教室。そこに、俺たち三人はいた。
「で、何なんだ」
俺はさっきのことを根に持っていたが、あえてそこはつっこまない。(夏葉がキレると怖いから)
夏葉が武を促す。武が話し出す。
「この学校に俺たち以外に言霊に目覚めている人がいます」
「本当か?夏葉のほうは?」
俺が聞いたのは言霊が発動されたときの、あるいは発動しているときの波動が感じられるか、ということだ。
あいにく俺はそういうのがまったくといっていいほどできない。修行はしたのだが、足りないのだろう、ということにしているが。
「感じるわ。今日言われてからだけど。本当にわずかに、痕跡程度だけどね」
「で、目星でもついてるのか?」
「武が」
夏葉の言葉に俺は武のほうを向く。武が立ち上がる。
「ついてきてください」
そのまま歩き出した。俺も後を追う。
着いた先はテニス部の練習場。つまりテニスコートだった。
武が指差したのは、一年の女子。
「夏葉、感じるか?」
「うん。・・・ホントに痕跡だけだけど。もしかしたら接触しただけかも・・」
「それはないよ!」
思わず声を上げた武。俺と夏葉は武を見つめる。
武は少しばつが悪いようで、頭を掻きながら続けた。
「・・・俺だって、ちゃんと修行してんだから、信用してよ。ほかの奴からも感じなかったし」
「うん、ごめんごめん」
夏葉が謝る。どうやらこいつは気付いていないようだ。
「とにかく、もしかしたら間違いかもしれないし、かけられてる可能性も捨てきれない。また明日にしよう」
「そうよね。それじゃ、わたしは一足先に帰るわ。ちょっと用があるから」
そういって夏葉は帰りはじめた。後には俺と武が残された。
5時だというのに、もう暗くなっている。部活も終わりになろうとしていた。
俺は武に言う。
「武、俺はお前を信用してる」
武は顔に笑みを浮かばせながらこっちを振り返る。
「龍哉さん!・・やっぱ先輩は・・」
俺はちょっとにやけながら続ける。
「お前、あのコのこと好きだろ」
「!!」
武の顔が朱に染まる。反論しようと口を開くが、俺の手がそれをさせない。
「いまさら無駄だ。反応が素直すぎる」
武があきらめたようにため息をつく。
「そうです・・・。・・・まったく、先輩って口数少ないと思ったら結構しゃべるし、こうゆうこと妙に勘がいいですよね。自分の事に関しては鈍いのに・・・・」
「なんだって?」
「いえ、別に」
自分の事に関して?何のことだ?
「夏葉とのこと言ってるのか?あれは単なるうわさだぞ」
「もういいですよ、ふふ」
こいつもなかなかかわいい性格だ。むしろ、殴り飛ばしたいぐらい。
「まあ、俺はお前を信用してるし、応援もしてやる。・・・・とにかく、あの娘に一番近いのはお前だから、何か細かいことでも見逃すなよ」
俺は微笑みながら言ってやる。武は頭を掻きながらも笑う。
そして、何かに気付いたように、急に表情を変えた。
「先輩!」
「なんだ?」
急に変わった表情に俺も思わず緊張する。
「このこと、姉ちゃんや沙理奈さん、それだけじゃなくて誰にも言わないでくださいねっ!!」
・・・・・っふ
「わかってる」
また武は笑った。
・・・ほんと、かわいい性格してるよ・・。
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