第十三話「犯人像」
「どうだ、あれからなんか変化は?」
昼休み、屋上で俺は武と話していた。基本的に屋上は立ち入り禁止なのだが、知ったこっちゃない。
武は難しい顔をして返す。
「全然です。わずかに波動を感じるだけで。」
あれから三日。とりあえず沙理奈さんに報告したところ、「忙しいからあんたらでやって」と言われてしまったので、とりあえず武に調査を一任している。
というか沙理奈さん、アンタは臨時収入で楽しんでるだけだろ。事務所になんか新しい機器が入ってたし。
「けど、あのコが関係してることは間違いないですよ。ほかに感じませんでしたから」
そこが問題だ。
関係しているのはわかる。けれど、使ってるのが彼女なのか、それとも彼女がかけられてるのかがわからない。
「・・・最近、変わったこととかは?」
武が一瞬不思議そうな顔をする。
「別に・・・あ、そういえば沙理奈さんが事務所に新型のパソコン入れてましたね」
そうじゃないって・・・・。というかあの機器はパソコンなのか?1メートルはあったぞ・・。
「ちがう。あの子が、だ」
ああ、と武は手を叩く。鋭いのか、馬鹿なのか微妙だ・・・
「そういえば・・・・・」
なんか言いづらそうだ。俺は周りに誰もいないことを確かめ、促す。
「なんか最近俺につめたいんですよね・・・・」
最後にいくにつれて声が小さくなっていく。そりゃショックだろうが、こいつが馬鹿だということが判明した。
「・・彼女は被害者だな。それから・・」
俺は心持ちうなだれている武の肩をつかむ。
「・・・ほかにあの子のことを好きそうな奴は?」
武がさらに沈み込むようにうなだれつつ言う。
「実加ちゃんは学年でも人気のあるほうですから、僕が知ってるだけで3人は・・・」
みか
実加ちゃん、ねぇ・・・・。しかも人気者っていかにもありがちな・・
「その中に根暗な奴はいるか?できるだけ友達いなそうな奴」
武が悲痛な表情のまま不思議そうな顔をする。というか恋してるのってそんなにつらいモンなのか?
「・・・・あ、ひとり。入学したときから友達少なくて、俺ぐらいしか話してないやつが・・」
「そいつの名前は?」
武がまさか、というような表情を作る。
「それはないですよ、せんぱ・・」
「名前は?」
俺の表情を見て、武が気おされる。
「・・・・新藤、卓真」
そうか、と俺は武の肩をはなす。と、昼休みの終わりを告げる鐘がなった。
俺は教室に戻ろうとする。武が一瞬躊躇して、後に続く。俺はある疑問を聞いてみた。
「おまえ、こないだのテスト何点だった?」
「へ?・・・482ですけど?」
・・・・・・・・・・。
察しの良さと、頭の良さって両立しないのかなぁ・・・・・
俺は五時限目の授業を受けていた。が、考えてることは公民のことなどではない。
しんどうたくま
・・新藤卓真。
たぶんビンゴだろう。
人気者がすき、友達少ない、つまりいじめられてる、とも考えられる。
おそらく性格も臆病だろう。と、すれば・・・
「深月くん、ちゃんとノートとってますか?」
社会科の種田だ。くっそ、うぜぇ。こっちは考え事してんだよ。
何も言わずにノートとってるフリをすると、種田は疑わしげな目でこっちを見た後、授業に戻る。
・・・50過ぎのもうろくババアめ。
「何か言いました?深月くん?」
「いいえ、何も」
・・・超能力でも持ってんのか?
武は国語の授業を受けながら、頭は別のことを考えていた。
――龍哉さんは、ほんとに新藤君が犯人だと思ってるのだろうか。
横に目をやる。そこには新藤卓真が自分と同じようにボーっとしているのが見えた。
彼は入学当初から、友達がいなかった。一時期はいじめらしいこともされていたようだ。
今では彼としゃべる人はほとんどいない。自分も、最近は周りの目を気にして、意識的に避けるようにしていた。
――実加ちゃんだって、優しくしてたよな。
そう思って、前のほうを見る。
うえはらみか
上原実加の、後ろ姿が見えた。表情はうかがい知れない。
実加を見るだけで、胸に微小な痛みが走る。その苦しさを、武はいまも感じていた。
――実加ちゃんが俺の彼女になったら、どんなに幸せだろうか・・・
少年は内心で笑っていた。
高らかに笑っていた。
彼女を手に入れたことに。
――僕のものだ。もう、はなさない。
――友達なんか、いなくてもいい。
――信用できないものなど。
少年は、心の影を、その笑いで隠していた。
第十四話へ
言霊へモドル