第十四話「人形」
武は少女のあとをつけていた。
少女は今日は部活を休み、早めに帰ろうとしている。
少年は今日の放課後のことを思い返しつつ、いまの自分の行動を考える。
――これって、ストーカー行為だよな・・・
―放課後―
「武、アイツか?」
「は・・はい・・・」
武と龍哉は新藤を見ていた。
龍哉のイメージどおり、暗そうな奴だったが、ちょっと違うことがあった。
(あいつ、結構かっこいい・・・)
龍哉はなんとなくそう思っていた。だが、武から聞いた話によると、やっぱりクラスではのけ者のようにされていることがわかった。
と、新藤卓真が玄関から出て行った。
龍哉は武にいう。
「よし・・俺がアイツの後を追うから、武は実加って奴の後をつけろ」
「つけろって・・・」
「気付かれるなよ」
といい、有無を言わせずに玄関から出ようとする。武の声。
「姉ちゃんはどうするんですか?調査でしょう?」
俺はため息をつく。
「あいつが来ると、お前がややこしいことになるから、呼ぶな。あってもやり過ごせ」
そんなわけで武は実加を追っていた。
と、あることに気付く。
――自分の家の方角じゃない・・・?
「武」
後ろから声をかけられ、危うく声を上げそうになる。後ろにいたのは龍哉だった。
「先輩、おどかさないでくださいよ」
武は小さな声でそうゆう。龍哉は悪びれた様子もなく、あごで前のほうを示す。
「どうやらビンゴのようだ」
そこには実加に合流する、新藤の姿があった。
新藤と実加はいまは誰もいない廃屋に入っていった。廃屋やら廃ビルやらが多い町だ、と思ったが、あえて口には出さない。
俺と武も中に入る。
そこでは、新藤が実加に対して、言霊を使っている姿があった――
「そこまでだ」
突然聞こえた声に、新藤は力の使用を中断する。
そちらを向くと、知らない中学生と、よく見知った同級生がいた。
「鈴音・・・武・・・」
武が悲しげな表情をする。
「どうして・・・新藤・・・なんで君が・・・」
新藤の前には、言霊をかけられてぼーっとしている実加の姿があった。
「お前たち、何のようだ?」
新藤の問いに、おそらく三年であろう中学生の口から言葉が返される。
「“我汝らに命ずる、動くな!”」
途端に体の自由が利かなくなる。新藤は理解した。
「貴様らも、俺と同じ・・・」
新藤はどうやら俺たちが何者か理解したようだ。そのほうが話しやすい。
「悪いがお前のやってることは、精神支配っていって違法行為だ。今すぐやめれば見逃してもいいが、やめないなら協会に報告てことになるが」
俺は言ってやる。相手を操ることは協会の国際法で禁止されている。動きを制するとか、状況的に仕方ない場面では平気なのだが、ここまでくると完全に違法だ。
というか、基準が微妙なので、判別が難しい。ドコからドコまでが違法かが、裁く人の気まぐれで変わってしまうのだ。
ただ、ひとつはっきりしてることがある。沙理奈が俺を真名で支配したのは違法だということ。
たぶん裁判やったら勝てるよ、コレ。その前に俺という存在が消えると思うけど。
場違いな笑い声が聞こえる。新藤だった。
「どうしてって?そんなに不思議かい、武」
俺は一瞬不思議に思い、すぐに前の武の問いに答えていることに気付く。
武が隣でこわばっているのが見えた。
「この力があれば、何だって好きにできる。友達を作ることも、それこそ犯罪までな。勿論、好きな人だって手にはいる。この力があれば、他人と馴れ合わなくてもいいんだよ」
武が叫びに近い声を上げる。
「何でだよ、君はそんなことする奴じゃなかった。俺にもすごく優しくしてくれた。なのに・・・」
「何で変わってしまったか?」
武の続く言葉を、新藤がいう。武が何かを言う前に、新藤が言葉を続けた。
「簡単だ。お前が変えたんだ。俺をな」
武が顔を上げ、絶句する。
「所詮人と人とのつながりなんか、もろくてつまらないものだ。それをお前が、俺に身をもって教えてくれた。そんなつながりよりも、この力はもっと強くて、硬いつながりを俺にくれる。実加だって俺と誰より強くつながっている」
新藤が実加のほうに首だけを向ける。実加が放心状態のまま言葉をつむぐ。
「私は・・卓真君が・・・好き・・・」
一瞬少女の瞳に揺らぎがあったのがみえた。
新藤は満足そうにこっちを向く。武がどうしていいかわからない、という顔をしていた。
「どうだい?これでわかったろ?この力はこうして使うことに意味があるって」
俺は新藤の勝手な理論、汚れた考え、つながりのない言葉に吐き気がした。こいつは同じだ。
「お前わかってないのか」
俺が新藤に声をかける。新藤は俺を無視している。
「お前がそいつを愛しても、そいつは本当はお前を愛していない。お前は自分が傷付くのが怖いだけだ」
俺の言葉に新藤が俺のほうを向く。俺はかまわずに続ける。
「お前のやってることは法律がどうとか言う前に、人間として堕落したやつのすることだ。所詮お前はそうやって、自分の作った人形でしか遊べない、ただの赤ん坊だ」
俺の言葉が沈黙を作り出した。
それを破ったのは、言霊の強大な力と、新藤の言葉。
「・・・・人形、だと」
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