第十六話「クリスマス・パーティ」




「ご苦労様〜〜。ハイ、買い物行ってきて〜〜」

事務所に入ったとたんの一言。俺はその内容を理解するのに数秒かかった。

「・・・・なんの?」

隣で夏葉も唖然としている。

目の前には沙理奈と拓実がいる。ただし、ツリーを飾り付け中だ。

今日は24日。いわゆるクリスマス・イブだ。

俺たち中学生にとっては終業式という何物にも変えがたい大切な日だったわけだが。

それで部活がある武を残して、俺と夏葉は事務所に直行したのだが、

「決まってるでしょ!?ケーキにチキンにその他いろいろ。わかんなかったらリストを見る!」

というわけで買い物に行かされるはめになった。俺は隣で呆けている夏葉をしり目に、あきらめていくことにする。途中でリストをちゃんと持って。

ついでに質問した。

「金はどうするんですか?」

「あんたらの実費」

・・・・・・・・・・・・・・・・



   ―商店街―

「まずは、・・ケーキ三個と・・」

結局夏葉も折れて一緒に行くことになった。俺としては例のうわさのために、一緒に行きたくはなかったのだが。

金については、さすがに俺も自制心を保てなくなりそうだったが、拓実が沙理奈を説得し、とりあえず沙理奈の財布から出ることになった。

モチロン事務所の経費から落とすのだろうが。

そう考えてるうちにケーキ屋に着く。さっさと終わらせたかったので、てきとーに三個選んで持っていくことにする。

その俺を誰かが制した。夏葉だった。その目には炎が宿っている。

・・・オレ、ナニカマズイコトシマシタカ!?

「馬鹿!?そんなので沙理奈さんが満足すると思ってるの!?」

それもそーだが、ほかの客の前で怒鳴るのをやめてくれ。

「もう、龍哉には任せられない。私がやるから、財布かして」

俺は迫力に飲まれて財布を渡す。夏葉はさっさとケーキを物色に行く。

その目が金色に輝いてるように見えた。

・・・・・・女って甘いもん好きだよな・・・・




   ―事務所―

俺はソファーで横になっていた。結局あの後夏葉が全部買い物をし、俺はその荷物を持たされるという結果になった。

ちょっと目を開けると武の姿が見えた。時計に目をやると、もう5時になっていた。

俺は身を起こす。武が気付いて、俺に話しかけてくる。

「あ、先輩。ご苦労様です」

恐らく状況から判断したのだろう。ねぎらいの言葉をかけてきた。

・・・あの事件からもう二週間ほどたつ。武は心に傷を負い、初恋(たぶん)の失恋をも味わったわけだが、いまはもうそんなことを思わせることもないくらいに元気になっている。

あの後二日ぐらいは、見るに絶えない姿だったが・・・・

肝心の新藤卓真と上原実加は元気にやってるようだ。記憶はちゃんと消えていて、2人で仲良くやってるらしい。武も新藤との仲が戻った。

ただ、新藤いじめは少しエスカレートしたらしい。そりゃ、学年で人気の女の子を彼女にしちゃえば敵は多くなるだろうが。

けど、いまは新藤には頼れる奴が少なくとも2人いる。たぶんもう平気だろう。

そんなことを思い出してるうちに、隼がやって来た。

「チィーッス、遅くなりました〜」

「遅い!罰として今日のパーティでなんかかくし芸しろ!!」

沙理奈に言われて、隼は苦笑いする。

「なんかあったんですか?隼さん」

夏葉がたずねる。心持ち顔が赤くなっている。

「ああ、そうそう。ホレ、俺からみんなに一足早いクリスマスプレゼントだ」

といって隼が夏葉に箱を渡す。夏葉はとてもうれしそうだ。

「ありがとうございますっ!隼さん!」

次いで、武にも箱を渡す。そして俺のところにも来た。

「ほら、クリスマスプレゼントだ。ありがたく受け取れ」

隼が冗談めかして言い、俺にも箱を渡す。

「いいよ、俺は」

「そんなこというなって。後輩は先輩からの心遣いを受け取るべきだぞ」

といって隼は執拗に勧める。俺は薄く笑って受け取る。

「・・・・どうも」

隼は満足そうにうなずき、拓実のところへといった。

俺は箱をしばらくもてあそび、包装をはいで、箱を開けてみた。

―――なんだコレ。

中から出てきたのは、アッカンベーをしたへんな丸いもの。

要するにびっくり箱だ。

俺があけたのを知って、隼が笑いながらやってくる。

「どうだ〜〜?びっくりしたか??」

俺はとりあえず視線で殺せるほどにらんでおいた。

「・・・は、はは。まあ冗談だって。落ち着け」

隼は両手で俺を制しつつ、下がっていく。

「あ、そうだ。捨てないでよくみろよ」

最後にそういって去っていった。

その後の様子をしばらくみてると、なんか悔しそうだ。俺が驚かなかったのが悔しいのだろうか。

俺はため息をつく。やることもないので、びっくり箱をみている。

と、そこが二重になっていることに気付いた。

すぐに上の邪魔者をどかすと、紙と包みが出てきた。

紙を開ける。

『先輩からのアドバイス〜〜〜!!(パフパフ♪)

  その@! お前はもっと笑え。お前の天然の素質ならお笑い芸人も目指せる!

  そのA! 中学生らしい振る舞いをしろ。沙理奈さんに甘えてみろ!ガキになれ!

  そのB!・・・・』

俺は猛烈に隼を殺したくなった。裏まで続いていたので、とりあえず裏の最後だけ見ておく。

そこにはこう書いてあった。

『これまでの事を見てどうだった?怒ったか?・・・そうか、そりゃ良かった!』

俺は破り捨てようとして、その続きを見て思いとどまる。

『まあ、仲間には感情を見せろ。甘えてもいい。・・・それから、包みの中身はいつも持ってろ。きっといつか役に立つから』

早速包みを開ける。そこには、闇緑色の石のようなものがあった。

石なんかいらないのだが。とおもったが、とりあえず俺はそれを内ポケットに入れた。

「さ〜〜あ!!準備もできたし、今日は飲むわよ〜〜〜〜〜!!!!」

沙理奈の良く通る大声。俺はソファーから立ち上がり、宴会場へと行く。

そこには昼間買ってきたもののほかに、多彩な料理が置いてあった。

「・・・この料理はどうしたんだ?」

近くにいた拓実が答える。

「それは私と夏葉ちゃんが作ったんですよ。こう見えて、私結構料理得意なんですよ」

と、言うことは沙理奈は結局ほとんど何の仕事もしてないってわけか。

「おっし、みんなグラスを持て!」

沙理奈が言う。俺たちは目の前にあったグラスを持つ。

・・・・・シャンパンにしては色が濃いような・・・・?

「「「カンパ〜〜イ!!!」」」

その合図とともに、6人が全員グラスを口に運ぶ。

途端に3人がむせ返った。

「こ・・・これ、ビール・・!?」

「苦っ!飲んじゃった・・・うあ〜〜〜〜〜」

「・・・・・・・・・」

夏葉、武が声を上げる。平然としていた3人のうち、沙理奈と隼がそれぞれ声をかける。

「あたしのビールが飲めないっての!?今日は祝日!!未成年なんて関係ナシよっ!!!」

「お前ら、まだ子供だなー。この味がわからないなんて」

「いや、子供にはわからないでしょうって、普通に飲ませますか?」

拓実がつっこみを入れる。

ようやく呼吸が落ち着いた俺は隼に問う。

「何年?」

「高二」

未成年だろが。

沙理奈はどんどん料理やビールをつぎ込んでいってる。

アンタにとっちゃ毎日が祝日だろうな・・・・

ふと武を見ると、真っ赤になって暴走していた。

「あああはははああああひゃっひゃひゃ?!?!?@」

夏葉は頭を抱えていたが、まだまともだった。

「あーー、コレで何回目だろ・・・」

俺は夏葉に同情し、いったん宴会場から避難して、台所で水を飲んできた。

だが、ちょっと目を放した隙に宴会場は戦場になっていた。

がっつく沙理奈。負けじと隼。ケーキを片っ端から食べる夏葉。暴走して走り回り、挙句ビールを頭から被ってる武。それをとめようとしてそこらじゅうでつまずく拓実。

俺は唖然としたが、すぐに料理がなくなりかけていることに気付き、その中に入る。

「せんぱ〜〜い?」

武の声。反射的に後ろを振り向くと、待っていたのは日本酒の一升瓶。

それが狙いをたがわず俺の口の中へと挿入された。

・・・・・・その後のことはあまり覚えていない。

ただ、次の日にひどい頭痛に悩まされ、事務所のメンバーから少し遠巻きにされた。

こうして俺にとっては疑問が残り、すっきりとしないクリスマスは過ぎていった。




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