第十七話「冬休みの始まり」
「・・・・・・何の用だよ・・・」
俺は玄関先に立っていた人物を見て絶句した。
卓弥ならまだわかる(あいつは神出鬼没だし)。けれどまさかこいつらとは・・・
「龍哉の勉強の手伝い」
「アーンド、先輩の私生活チェック!」
鈴音姉弟が玄関先で答えた。
現在時刻8時半です。俺はいまさっき起きたとこです。
・・・・朝飯も食ってないのに・・・・
「・・・とりあえずうるさいから上がれ」
夏葉と武は遠慮もせずに上がってくる。
「へぇ〜。結構きれいなんだね〜、このアパート」
夏葉が感想を言う。
「俺のおかげだ」
武はもうとっととリビングのほうへと進んでいた。
俺は寝室へと入り、鍵を閉めてから着替え始めた。
応対したときは?モチロンパジャマですよ。つーかあいつらのせいで起こされたといっても過言ではないし。
まずは飯を食わないと。
俺は着替え終わってリビングに行く。姉弟はもうこたつに陣取って、テレビをつけていた。
俺はキッチンへと向かいつつ、ふと気付いて声をかける。
「・・誰の指示だ?」
「「上」」
2人同時。俺は考える。
俺の家を知ってそうな、そんで俺の学力に関しても・・・・
「・・・まさか谷口か?」
「まさか。沙理奈さんよ」
谷口というのは俺の担任だ。(←一話参照)あいつは結構自己中なんだが、俺のことに関しては結構踏み込んでくる。
それが嫌がらせになっているのを自覚して、だろうが。
・・・・・・もしかして、沙理奈とつながりがあったり・・・・
俺は嫌な考えを振り捨て(ほぼ合ってそうだし)、朝飯の料理に取り掛かる。
それに気付いた夏葉がやってくる。
「へぇ〜〜、龍哉料理できるんだ」
俺は答えずにとっとと準備にかかる。
・・・今日はチャーハンでいこう。
「何つくるの?」
「チャーハン」
「何つくれるの?」
「チャーハンとカレーとラーメンとスパゲッティ」
「・・・・ほかは?」
「まて、あと目玉焼きがあった」
「・・・・・・・・・・」
夏葉が俺の手からフライパンをふんだくる。
「・・・・なにを」
「信じらんない!それでいままで生きてきたの?・・・今日はあたしが作ってあげるわ」
俺は取り返そうとしたが、夏葉から例の波動(カラスのときの)を感じて、すごすご引き下がる。
・・確かに、どうあがいても3日以上たつとメニューが元に戻るんだから、考え物だが・・・・
ちなみに言っとくが、あくまで主食に関して、だぞ。ご飯は炊けるし、サラダ程度なら作れないこともない、と思っているのだが・・・
俺はこたつに入る。武が聞いてくる。
「先輩って一人暮らしですか?」
「ああ」
テレビはニュース(20××年、12月26日、今日の天気は・・)をうつしていた。
「いつごろから?」
「・・・5〜6年前だったかな」
「苦労したことは?」
「料理」
「この写真の人たちは?」
「お前、少し落ち着・・・・・それは」
武は写真立てに入った写真を持っていた。4人の人が写っている。
「・・・俺の家族だ」
「へぇ〜〜〜。これは弟さんですか?」
俺はうなずく。
「エ、じゃあ家族の人はいま何を?」
「死んだ」
「・・・・・ぇ」
武はこわばった後、悲しそうな顔をした。
「・・・すみません、先輩、おれ」
「気にするな。俺もあまり顔を覚えていない頃に死なれたから、悲しくはない」
武はそれでもすまなそうな顔をしている。俺は話を変えたくて、横を見た。
「武、これやってみろ。はまるから」
そういってパソコンの電源を入れる。
まもなく立ち上がったパソコンから、俺はあるアイコンをクリックした。
不思議がる武にマイクつきのヘッドホンをかぶせ、コントローラーを持たせる。
それはあるネットゲームだった。最新のもので、実際にキャラクターの視点から物語を進められ、マイクとヘッドホンでほかのキャラクターと話ができる、というものだった。
数年前から比べると、えらい進歩だと思う。
「わぁ〜〜〜〜、これすごいですね。」
武もやりながら、笑顔が戻ってくる。俺はほっと息をつく。
夏葉が料理を持ってきた。
「はい、どうぞ」
といって出したのは、白いご飯に、味噌汁、焼き魚、海鮮サラダ、何かの煮物だった。
「・・・・すごいな」
「ってゆうか、一人暮らしならこれぐらい作れるもんでしょ?普通は」
「?お前って・・・」
「私は違うわよ。ただ趣味なだけ」
俺はその答えを聞いたあと、すぐに食事に取り掛かった。
うん、うまい。これは何年も食ってなかった懐かしいような味だな。
料理を一気に食べ、かたずける。
ああ、久しぶりにうまいもの食った。幸せだ・・・・。
そして早速ゲームの電源をつけようとした手を、夏葉が止めた。
「・・・なんだよ」
「私が来たのは龍哉に勉強をやらせるためよ」
「・・・・・・見逃せ」
「駄目。沙理奈さんの命令だから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
武よ、お前はいいな。
俺は観念して、勉強との戦いに入った。
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