第十八話「ある意味で地獄より地獄で冬休みなのに(以下略)」




ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅxxxxxxxxx

おうぐらふぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁzzzzzzz

「龍哉!」

夏葉が俺に怒鳴る。俺はすぐに姿勢を元に戻し、続きをやる。

・・・問題:x=1+√2+√3、y=1+√2−√3であるとき、xy−x−y+1の値を求めよ。

・・・・・・・・・・・・・・

中学生のやる問題ですか!?

俺は夏葉に助けを求める。

「え?・・・ああ、そこはやんなくていいのに。難関私立の問題だから」

あたしはできるけど、と夏葉は付け足す。

・・・先に言ってくれ・・・

今日は30日。26日から毎日こんな風に地獄を見せられてる。

・・・・・・・・・いまって冬休みだよな・・・

武はあのゲーム(Unlimited Stories(アンリミテッドストーリーズ)通称US)を教えて以来、夏葉と一緒に毎日来ている(USをするために)。

今は俺の勉強の邪魔になるってことで(夏葉がそういって)隣の俺の部屋でやってる。

宿題は、と二日前に聞いたのだが、

「ああ、二日で終わりました」

とても人間とは思えない返答をされたのだった。

「さっさとやらないと夕飯抜きよ!!」

「いや、自分でつくれるし」

「なんか言った!!?」

「・・・・なにも」

夏葉はというと、あれから毎日来ては食事を作ってる。おかげで冷蔵庫は夏葉の物で占拠されてる。

そして俺が使うことを夏葉は許さない。事実上食事という人質をとられている。

・・・・・いちおう、俺が家主なんだけどな〜〜・・・・・

「た〜つ〜や〜」

そろそろ殺気を放ってきたので集中しよう。

・・・・・・・・・・・・ああ、地獄より地獄だ・・・・




  −12月31日−

「よ、その様子じゃあだいぶきつそうだな」

ここは沙理奈の事務所―もとい、佐藤法人出張事務所―だ。

よくわからんが表向きにはなんかの企業の出張事務所になってるらしい。

そこで俺はつかの間の休息を楽しんでいた。

「・・・ありえないぞ、あの女は」

俺は隣に座っている隼に愚痴を言っていた。

今日は大晦日ということで、事務所でうちあげをするらしい。夏葉もさすがに今日は勘弁してくれることになった。新年もやるまい。

「・・ん〜〜、まあ、それがあいつのいいとこでもあるんだと思ったほうがいいというか思え」

「あんたの会話はおかしいぞ」

隼はなんか不思議な感じだ。卓弥に似たタイプなのだが、なんか性格が読めない感じだ。

「・・・・・あの女をどうにかしてくれ。あんたならできるから」

やばいな〜〜〜。もう愚痴から懇願へと変わってる。

隼は笑って言った。

「確かにそうかもな。・・・・けど、それはいいことじゃない。お前にも、あいつにとっても」

俺が隼の方を向いたとき、隼は顔を背けていた。

何かを言おうとする前に、大声が響いた。

「宗治狼っ!!!この馬鹿!!何でうどんかって来てんのよ!!」

「スイマセン、スイマセン、どうかお許しを・・」

「許せーーーーーん!!!」

ゴシャア!!!!

そして扉から入って(正確には吹っ飛ばされて)きたのは、一人の少年。

俺が驚いていると、隼は「いつものことだから」と呆れ顔だ。

少年は立ち上がる。普通だったら大怪我しそうなもんだが、傷ひとつない。

俺は違和感を感じ、そして頭の中で眠っていた知識を呼び起こす。
     せいれい
「・・・・・・生霊、か?」

「あたり!」

隼が言う。宗治狼と呼ばれた少年に、夏葉が駆け寄って声をかけている。

生霊とは、簡単に言えば言禍霊のいいタイプのものだと思えばいい。

言禍霊も生霊も言霊の影響を受けた生物、あるいは実体を持たないものなのだが、それが人間に対して悪事を働くかどうかで分けられている。

と、事務所の物置と化している書斎で見つけた本に書いてあった。

あれは人間の姿をしてるけど、どうゆうタイプの生霊なんだろう。

と、扉から沙理奈が入ってくる。キレているな。

「罰よ!!もっかいそばを買ってきなさい!!」

「そんなぁ」

情けない声を出した宗治狼は、瞬間、狐に変わった。

なるほど、それで人間の姿をしてたのか。人間タイプの生霊とかを使役してたら違法だったんだが。

宗治狼はもう一度人間の姿になって、扉から出て行った。夏葉が後を追う。

「あいつにはああゆうとこもあるんだぞ」

隼が言った。おれが不思議そうな顔をしていると、「わからないなら、それでいい」といって、立ち上がった。

「6時になったら起こしてくれぇ。一眠りする。それから宗治狼にお前自己紹介しとけよ」

と寝室へと引っ込んだ。




「10,9・・・・・・3、2、1、」

「「「「あけまして、おめでと〜〜〜!!」」」」

今は1月1日午前0時になったところだ。

俺たちはカウントダウンをしつつ、新年を迎えた。

年越しそばは売り切れていたようで、急遽宗治狼が作ることになった(結局夏葉が手伝って、宗治狼は助かった)。

今ここにいるのは、沙理奈、拓実(大晦日まで仕事で遅れてきてた)、夏葉、武(俺の家から持ってきたPCでUSをしていた)、宗治狼、俺の6人(5人と一匹?)だ。

隼は6時に起こした後、7時にはもう帰ってしまった。

「今日は泊まってくんですか、皆さん」

宗治狼が聞く。俺は宗治狼に自己紹介をし、しかしなぜか宗治狼のほうは俺を知っていた。

夏葉が答える。

「ううん、わたしたちはこれから家に帰るわよ」

「あれ?帰ってくるのは朝じゃなかった?」

「そうなんですけど、ちょっとね、自分たちの部屋が・・・」

沙理奈の問いに武が答える。

「そういえば君たちのご両親はそうゆうことには厳しいんだったよね。今回はどこへ行ってたの?」

と拓実。仕事した後なのに、全然疲れたそぶりを見せない。

「今回は青森に行ってたんですよ。まったく、正月までほっとくなんて、放任主義もいいとこ・・」

「けどいいじゃん、やることは少ないし」

「そりゃあ、そうだけど・・」

と鈴音姉弟。どうやら両親が出かけているらしい。

・・・・まてよ、そういえば鈴音って姓、どっかで聞いたような・・

「それじゃあ先輩、また来年。じゃなくて今年か」

武たちは帰るようだ。俺は見送る。拓実が送っていくようだ。

その後俺はかねてからの疑問を宗治狼にたずねる。

「おまえ、これまで何をしてた?」

宗治狼は一瞬硬直した後、沙理奈が台所にすっこんでるのを確認し、小声で言った。

「・・・・・ちょっと失敗をして、夏からあのつぼに封じられてました」

とそれをさす。あのつぼってたしか俺がここに来た日に割れた(沙理奈に割られた)ような・・

「それで、今日まで書斎に隠れてました」

ああ、と俺は心の中で納得する。初対面のはずの宗治狼が俺を知ってたのはこのためだったのだ。

「それじゃあ、俺も帰ります」

俺は沙理奈にそういい、返答を待たずに立ち去ることにした。

さあ、今日から本当の冬休みが始まる。勉強ナシの。




   −1月3日−

「あけましておめでとうございます、せんぱ〜〜い」

「さあ、もう今月の中旬には私立の受験よ。がんばらないと」

「かくまってください〜〜〜、龍哉さ〜〜〜ん」

「・・・・・・・・・・・・」

俺は硬直していた。玄関には武、夏葉、宗治狼がいた。

「武と夏葉はわかるが、お前は?」

「沙理奈さんに・・・・・ああああああ!!」

とりあえず朝から大声を出されると厄介なので、家の中に入れる。

武はやっぱりパソコン、宗治狼は俺の寝室へ逃げ込み、夏葉はこたつに入った。

「お前ら、両親は?」

「「また旅行」」

俺はため息をついた。

・・・・・・・・・・・・・・・そして俺の地獄は、新学期まで続いた。




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