第十九話「最凶最悪の敵」




くっ、強いな・・・・・。

これまで練習で闘ってきたものと同レベル、あるいはそれ以上だ。

だが・・・・・

俺も強くなった。

戦えない相手じゃない!

逝くぞっ!!!




「試験終了10分前です」

そう、俺はいま、入学試験という最悪の敵と戦っているのだ。

今考えると、冬の特訓はあってよかったと思う。

2学期の俺じゃあ速攻であきらめていたような問題がならんでいる。

けれど、あの特訓のおかげで何とか学力が上がり、3学期にやったテストで好成績を残し、谷口を驚かすことができた。

その後、3学期に入ってからは夏葉の恐怖からは逃れられたが、今度は宗治狼によって勉強をさせられた。

意外というか、やっぱりというか、几帳面で真面目な性格なのだ。
そうじろう
宗治狼は1月3日からなぜか俺の家に居候している。もう3月なのだから、沙理奈のところに帰ってもいいと思うのだが、その話をすると、途端に狐の姿に戻っておびえだすので、帰すのをあきらめたのだ。

「試験終了、答案を集めなさい」

やべ、もう終わりかよ。

けれど俺はあわてない。なぜならできたという自信があるからだ。

フッ、国語がこれなら、余裕かな?




「どうだった?今日は」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・うん、言いたくないならいいけど」

国語での余裕はどこへやら、続く数学で思い切りへこませられ(前半はいいが、後半がぁ・・・)、さらに続く社会で叩きのめされ(『平安時代貴族が荘園に対して持っていた二つの権利を述べよ』・・・知るかよ!一応社会は得意なんだが、こんな問題があったなんて・・・)、今に至る。

それで今日は終わりで、明日に理科(俺のもっとも苦手だった分野)と英語、それに面接がある。

俺はそのまま夏葉とわかれ、自宅へと向かった。




「龍哉〜〜、どうだった〜〜?」

ドアを開けた途端に顔にふさふさしたものが飛んでくる。俺は部屋に入りつつ、それを引き剥がす。

「宗治狼、その姿で声を出すのやめろって言ったろうが」

俺の手に首をつかまれてぶら下がっている狐――宗治狼が、笑いながら(たぶん)いった。

「ごめんごめん。けど、家の中なら何しててもいいって言ったのは龍哉でしょ?」

そういって人間――少年の姿に戻る。

狐状態では表情が読み取りづらいので、人間型のほうがいい、と俺は個人的に思う。

「さぁ、明日は龍哉の苦手な理科か。どうなるかなぁ」

「苦手だったのは前までだ。夏葉とお前のおかげでどうにかなるだろ」

宗治狼は、誰が呼び出したのかは知らないが、千年弧の生霊だ。そのため、認めたくないが、すこぶる頭がいい。

そして、もともとは明るい性格らしい。他人に対しては礼儀正しいが、気を許した相手には本性を見せている。たとえば、俺に対してとか。

それにしても、こいつは誰に呼び出されたのだろう。

生霊や言禍霊は言霊の影響によって生物が変異したり、霊的存在が言霊師の言霊によってこの世に出現したりして生まれる。生霊の場合はほとんどが後者だ。

宗治狼は後者だから、出現させた言霊師がいるはずだ。普通、言霊師に行動を制約される類の言霊をかけられるものなんだが、こいつにはない。

呼出人が沙理奈なら、制約をかけるに違いない。つまり、こいつは沙理奈に呼ばれたのではない。

だからこうして自由に行動できてるわけなんだが、なんか引っかかる。

確か事務所の本のどっかに、千年弧についての記述があったような・・・

あの倉庫の本からいろいろ知識を得てるから、これだけのことを4ヶ月ほどで理解してるのだが。

・・・駄目だ、思いだせん。受験勉強の所為だ。

とにかく、明日の試験だ!!

「宗治狼、今日も頼む」

「はいは〜い」

そして俺は再び戦いへと戻る。




   −受験2日目−

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よしっ!

見直しも完璧、間違いは最小限。

これで理科クリアーだ。

宗治狼のおかげだ。予想問題がぴったり的中したのだ。あとで油揚げでも買ってってやるか。

と、そのとき、嫌な感覚が俺を襲う。

・・・・・・・・・・・これは、言禍霊!?

しかもこの学校の近くだ。

俺はすぐにでも駆け出したかった。けれど、今は試験中。

気を落ち着かせて、試験が終わるのを待った。




「・・・あれ・・・?」

試験が終わり、すぐに廊下に出たが、あの感覚は消えている。

「どうしたの?龍哉」

夏葉がやってくる。俺は試験中に感じたことを話した。

「・・・・私は言霊の反応すら感じなかったけど・・・・」

・・・・・・へ?

おかしいな・・・・

「疲れてるんじゃない?龍哉。後一教科だからがんばろうよ」

と、俺の肩を叩く夏葉。

俺はいまひとつ納得できなかったが、試験の教室に戻った。




英語の時間。

俺は集中して、言霊の反応を探っていた。

また何かあったら、これならわかる。

「試験終了10分前です」

・・・・・・・・・・・・・・あ゛




結局言霊の反応はなかった。俺が疲れていたんだろうか。

と、いうか、それを気にしていたせいで、英語〜面接の記憶が朦朧としている。

「はぁ〜〜〜〜、やっと終わったね」

「そうだな」

「今日はどこかに行く予定あるの?」

「沙理奈さんの呼び出しか?」

「ううん、聞いてみただけ」

俺と夏葉は他愛もないことを話しながら階段を下りていく。

「家にいる。宗治狼もいるし」

「そっか。・・・・あ、あれ、隼さんだ!!」

と、夏葉はすぐに駆け出す。

俺はその様子を見つつ、夏葉を置いて帰ることにした。

隼にも今日のことについて聞いてみたかったが、もうどうでも良くなってしまっていた。

今の問題は、一週間後の合格発表の日だ。




それから一週間、俺は眠れない日が続いた――――




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