第二十一話「新天地」




「・・・・・で、あります。それゆえに・・・・」

俺は憂鬱だった。体育館に300人もの人間が詰め込まれ、しかもあの教頭は20分も話している。

いい加減我慢の限界ってものがある。それがいくら高校の入学式だとしても。




「――――はぁ」

俺は体育館から出て、少し端のほうでため息をついていた。

そこへ一つの影がやってくる。

「ぃよーーう、生きてるか〜〜〜?」

卓弥だった。

「現状を見てモノを言えよ」

俺はそれだけ言い返す。

卓弥がこの学校を受けた理由がいまだにわからない。卓弥の友達はここより下か、あるいはここいらで最高の港市立川橋高校に行っている。

・・・・もしかして、俺狙い?ホモか?

と、へんな考えを働かせてみる。

「そりゃそうと、お前ホントに鈴音とできてたんだな」

俺は思わず倒れそうになった。

「あれはうわさだ。お前が流したな」

「けど発表のときココで一緒にいたし、特訓がどうのとか言ってたろ」

「あれは・・・・・・・・」

言い返せない。卓弥は意地悪い表情をして、こういった。

「ま。人が誰とどうだろうと、俺には関係ないからな。そうゆうわけで、がんばれよ〜〜☆」

・・・・・・・・・・・・・・・

「・・まったく。とにかく、あれは誤解だ。たまたまだ」

「もっといい言い訳を考えろよ」

駄目だ。状況はこっちに不利だ。

「ともかく、一緒のクラスでよかったな」

「俺にとっては地獄だが」

といって、俺たちは教室へと向かう。




「遅かったね、龍哉」

「まあな」

1−2の教室。俺も卓弥も、夏葉までこのクラスだ。

卓弥は、というと、もう違う学校の奴らと話をしている。友達を作るのがほんとにうまいと思う。

「そういえば、担任って誰だ」

「さぁ。誰だろうね」

「全員席につけ〜〜〜!!」

大人の声。恐らく担任だろう。

しかし、それを見た俺は絶句した。

「・・・た、谷口!?」

「先生、だろ。このボケ龍哉。まさかお前が受かるとは思わなかったが」




「ってなわけで、今年度からこの学校に転任して、早速お前たちの担任となった谷口英緒(ひでお)だ。知ってる奴もいるかもしれないが、一年間よろしく頼む」

目の前にいるわりとしっかりした体型のおっさんは、去年俺の担任だった奴だ。

・・・・こんなことなら、新聞で異動に関する欄を読んどくべきだった・・・・

「えっと、今日はとりあえず席を決めんのと、一人ひとり自己紹介でもしてもらうかな」

と、言うわけで席替え。普通の奴にとっては楽しいんだろうが、俺たちはそうは思わない。

なぜなら谷口英緒という人間をよ〜〜〜く知ってるからだ。

「はい。じゃあお前ら、テキトーに席を決めろ。取り合ってもよし、話し合ってもよし。喧嘩もOKだ。ただし流血騒ぎにならないようにな」

クラス中の息が一瞬止まった。

一拍のち、教室は、戦おうとするもの、避難するもの、漁夫の利を得るもの、傍観するものの、戦場と化した。




「・・・・・・・・疲れた」

「確かにね・・・」

俺たちは帰路についていた。結局けが人は出なかったからいいものの、混乱はすさまじかった。

谷口の行為がばれてないのが残念だ。ばれてれば確実に教員免許が剥奪されるだろうに。

「・・けど、谷口先生って面白いから、良かったじゃない?」

去年の俺の学校では、谷口は生徒たちから一番人気があった。

俺はあまり好きじゃないが(理由はなんとなく)。

「それにしても、最近仕事がないな」

俺の言ってるのは、言霊師としての仕事のことだ。最後にあったのが新藤の事件で、ここ3ヶ月は何も起こっていないのだ。

「平和ってコトで、いいんじゃないの?それに、そんなこと言ってると仕事が入ってきちゃうかも。ほら、よく言うじゃない?うわさをすれば影って――――」

俺は夏葉を抱えて横に飛んでいた。

少し前まで俺たちがいたところには、地面に刃物を突き立てたマントの人間がいた。

「・・・なんだ、お前は」

マントの人間がこちらを向く。否、人間ではなかった。

人間のような体つきだが、よくゲームなどに出てくるモンスターのような姿だった。

「言禍、霊」

夏葉の言葉とともに、それはこっちに向かって突っ込んできた




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