第二十二話「沙理奈事務所の実力・前編」




ドガァ!!!

っく、速いっっっ!!!!

何なんだ、この言禍霊は。速い上に、力も強い。アスファルトに簡単に穴開けやがった。

しかも刀を持ってる(刃物はよく見たら刀だった)。こっちは武器がない。

つまり、絶体絶命。

「っく、“我命ずる!動くなっ!!”」

その言葉に、モンスター(むしろ鬼)のような言禍霊は止まった。

と思ったら、すぐにまたこっちに向かってきた!!

「危ない!!」

夏葉が俺を押したおかげでかろうじて串刺しはまぬがれたが、それでも腕を少し切られた。

くっそ、この制服今日おろしたばっかなのに!!

「・・・言霊が、あまり効いてない」

「結構上のランク・・中の上ぐらいかな」

「携帯持ってるか?」

夏葉は取り出してみせる。携帯って校則で規制されてたかな。いまさらそんなこと考えてどうする。

「沙理奈さんに連絡して、救援または名前を調べてもらってくれ。俺が時間を稼ぐ」

「わかったわ」

夏葉はすぐに取り掛かる。俺は鬼面の言禍霊と向き合う。

さて、俺の戦闘技術の実戦投入と行きますか。




「・・・あ、沙理奈さんですか!?今言禍霊と交戦中で、私たちだけじゃどうにもなりません!!救援か名前を・・・」

「夏葉、落ち着いて。救援にはいけない」

夏葉は頭の中が真っ白になった。そして、続く言葉でさらにパニックになる。

「いま、港市内で言禍霊が少なくとも3体は出てる。隼、武も交戦中よ」

夏葉は何もいえなかった。一気に三体も。これまでにはなかったことだ。

「落ち着いてる?しかも悪いことに全部中位以上の言禍霊。名前も知られてない」

「・・それじゃあ、どうすれば・・」

「あたしか隼が終わり次第救援に行くから、それまで耐えて!!」

夏葉は覚悟を決めた。

「わかりました。なるべく早めにお願いしますね」

「当たり前よ!!あたしがパーティに遅れたことがある!?」

その言葉で夏葉は少し平静を取り戻した。

「じゃあ、死ぬんじゃないよ!!」

「わかってますよ!!」

切れた。

そして夏葉は、闘っている龍哉のほうへと向かった。




「参ったわね・・・・“言霊の反応を示せ!!”」

沙理奈は事務所で検索の言霊を使った。

この言霊は情報を直接頭に叩き込まれるので、精神力的にもきついし、範囲が広ければ広いほど力も使う。

そのため、使えるもの、使うものが少ないが、沙理奈はわけもなくやってのけた。

「・・・・反応が・・・6つ・・・・闘ってるのは・・・・・龍哉と夏葉、武、隼、それに・・・・宗治狼!!?あの馬鹿、年始から何処行ってたんだか。それに、拓実か・・・・」

沙理奈は言霊を止める。そして自分に言い聞かせるように言う。

「隼は平気、宗治狼も、何とかなるか。拓実は・・・・あれがあるし、平気よね」

そして何事かをつぶやく。すぐに、部屋に銃声が響いた。

音を出したのは沙理奈が後ろ手に持っていたエアガン。いつも龍哉たちが使っているものだ。

だが、破壊力が違う。射線上にあった、侵入していた言禍霊の頭を、文字通り消失させていた。

頭を失った言禍霊は、そのまま消え去った。

沙理奈は電話をかけつつ、事務所を出る。

「・・・・あなたの言った通り、大変なことが起きてるのかもね・・・」

その独り言は、風に流されて消えていった。




ギィン、ドゴッ!!

っち、やっぱ速い。

けど、こんだけ住宅地から離せば・・・・

「“我、命ずる。大地よ、仇なす者を貫く槍となれ!!”」

言霊とともに、鬼面の下から土が、コンクリートを突き破りせり上がるっ!!

幾千もの土の槍が鬼面を覆った。

・・・ふぅ。実験成功。本にあったとおり、結構自然に働きかけるタイプはきついな。

けど前より動かせる量が増えた。あの本――攻撃系基本言霊集だっけ――のおかげだ。

・・・ピシッ

・・・・・・ん?・・・な・・・!!

鬼面が土の槍をすべて吹き飛ばし、再び突進してきた。傷がないところを見ると、すべて刀で切ったのだろう。

やべぇ、さっきの言霊で、疲れてる。いつまで、持つか。




「・・・・ハヤ!?あんた、それ終わったら龍哉と夏葉の手助けお願い!!以上!」

ピッ、ツー、ツー、ツー

隼は携帯をしまいつつ、言禍霊の攻撃をかわした。

今日は入学式だったから、部活をなしにして早めに帰っていたのだ。

隼の前にいるのは、犬のような言禍霊だった。

「・・やれやれ、三月の続きか?」

そう、受験のとき龍哉が感じた言禍霊の反応は、現れてすぐに隼が倒していたのだ。

「・・・ってわけじゃないか。沙理奈さんの、いや、あの人の恐れていたことの始まり、か?」

隼は攻撃をことごとく見切り、かわしながら一人言う。

犬が腹を立て、突進する。それが犬の最後の行動となった。

犬の頭を砕いたのは、隼の持つ棒。隼は中位の言禍霊を一撃で倒したのだ。

「・・・・・龍哉たちは・・・・・」

隼は龍哉たちを感じるほうへと走り出す。

「・・・こっちのほうが、近いかな」

隼は、途中でヤブ道へと向かう。

・・・・・・・・・・・・1つ言い忘れたが、彼は重大な方向音痴なのだ。




「ッうわっ!!」

武は必死に言禍霊の攻撃をかわしている。

武の前にいるのはカマキリのような言禍霊だ。

入学式だったので、中2である武は部活も早く終わり、帰路についていたのだが、その途中で言禍霊の反応を感じ、来てみたものの防戦一方となっている。

―――こんなことなら、先に誰かに連絡を入れるんだった。

と、武は、自分の体が後ろに倒れるのを感じた。石につまずいたのだ。

非常にも振り下ろされるカマキリのカマ。

その様子が、まるでスローモーションのように見えた。




夏葉はようやく龍哉を見つけた。今にも鬼面に倒されそうになっている。

と、龍哉がバランスを崩す。鬼面は刀を振り下ろす。

夏葉は夢中で龍哉に体当たりした。

次の瞬間、左肩に今まで感じたことのない鋭い痛みがはしった。

みると、斬られて、血が噴き出していた。

そして、鬼面を見ると、今まさに自分の首をはねようと、刀を振りかぶっているところだった。




第二十三話へ





言霊へモドル