第二十五話「言具」
目を覚ました俺。
そこは真っ白い世界だった。
何もない、真っ白な世界。
―――俺、死んだのかな。
一度目を閉じ、再び開く。
あたりが鮮明に見えてきた。
そこは、部屋中が白い、まるで病室のようなところだった。
ような、というのは、そうでないからだ。なぜなら、そこに沙理奈がいるからだ。
「や、目ぇ覚めた?」
「・・・・・・何で援軍にこないんですか」
沙理奈は不思議そうな顔をする。そして、うなずいた。
「そっか、あんた夏葉から聞いてないのね」
今度は俺が不思議そうな顔をする番だった。沙理奈が手短に今日のことを教えてくれた。
「・・・・それで、ほかのみんなは?」
「全員無事よ。無事じゃなかったのはあんただけ。ま、あんたたちが一番やばいのに当たったしね」
沙理奈の言葉に、俺は安心する。
「・・・・・お、起きたか?龍哉。腹とかちゃんとふさがってるよな」
隼が入ってくる。俺は上半身を起こし、急いで腹を見た。
―――――ふさがってる。
「あんたねぇ、あたしを信用してないの?」
沙理奈が(かすかに苛立ちを含んで)苦笑いする。
隼が入り口でなにかをやっていた。
「そりゃそうと、本題に入るわよ」
沙理奈の雰囲気が明らかに変わる。隼の雰囲気も。
集中してみたら、この部屋全体に何らかの言霊がかかっているのが感じられた。
「安心しろよ、防音するのと、戸をふさぐのだから」
隼が言う。さっき隼がその言霊をかけていたのだ。
「・・・で、アンタ」
沙理奈の声。俺は緊張する。
「緊張しなくてもいいわよ。聞くだけだから」
沙理奈には俺の内面まで見透かされているような気がするから怖い。
「アンタ、闘ってるときに、武器を出さなかった?」
俺は驚いた。何故わかったのだろう。それに、これは言ってもいいことなのだろうか。
「正直に答えても平気だぞ。これ見ろ」
隼が少し前に出る。
「―――――“如意丸”―――」
というと、隼の手に、棒が出現した。
これは・・・・・・
「『言具』っていうんだけどね」
沙理奈が言う。
「簡単に言えば、言霊をかけられた武器のようなものかな。正確には言霊が武器の形をしてるんだけどね」
俺は、少し戸惑いつつも、呼んだ。
「“正輝”」
俺の手の中に、青竜円月刀が現れる。沙理奈たちが、やっぱり、という表情をする。
だが、沙理奈の表情に、疑問が浮かんでいた。
「あんた、それなんて名前だっけ?」
「え、正輝、ですけど?」
正輝、と沙理奈が繰り返す。隼も不思議そうにしていた。
俺は息を吸い込んで、聞いてみた。
「・・・これが何か?」
「別に」
予想してなかった答えに、俺は少し拍子抜けした。
もっと、それも本来法律違反だ、とか言われるのかと思ったが。
「・・・とりあえず、確認が取れてよかった。あんた、回復してんなら、明日から学校でしょ。今日はゆっくり休みなさいよ。それから・・・・」
沙理奈が立ち上がって、戸にかけられた言霊を解きながらいう。
「それ、正輝って言ったっけ?非常事態以外はあんまり出さないようにね。事務所のメンバーの前であっても」
そういって部屋から出て行った。
俺は隼に聞く。
「・・・なぁ、あれホントに沙理奈さんか?」
隼がこっちを見る。明らかに不思議がっている。
「・・・・妙に優しくないか?」
俺の言葉に隼が吹きだす。俺としては当然の疑問だったと思うのだが。
「あれもあの人の一面だって。ま、お前の疑問もわからなくはないが」
隼はそういい、それだけ元気がありゃ平気だな、と付け加えて、出て行こうとする。
俺はもう1つ聞いてみた。
「なぁ」
「ん?」
「これ、どうやって消すんだ?」
俺が指差したのは言うまでもなく正輝だ。隼の手からはもう如意丸は消えていた。
「ああ、名前言って消えろ、とかでいいんじゃないか?」
正しい使い方はわからん、と言われた。これまでも使ってたんじゃなかったのか?
けど一応やってみる。言霊を使ったほうがいいよな。
「・・“正輝、消えろ”」
そういうと、正輝は消えた。隼はそれを見て部屋にかけられていた言霊を解き、出て行く。
入れ替わりに武、宗治狼が入ってきた。
「大丈夫ですか!?龍哉さん!!」
「龍哉、死なないでよ〜〜〜!!龍哉が死んだら、誰が油揚げ買ってくれるのさ〜〜〜!!」
「・・お前にとって俺は、油揚げ買う存在なのか?」
宗治狼はまったく聞いてない。勿論武も。体にまとわりつく2人のガキをほっといて顔を上げると、
肩に包帯を巻いた夏葉と、もう一人。
「・・・・・!お前・・・」
「・こ、こんにちは・・・」
そこにいたのは新藤卓真だった。
武が気付き、説明を始めた。
夜。
俺は事務所のあの部屋にいた。
傷は治って、もういいのだが、沙理奈に泊まれといわれたのだ。
抵抗したら、真名まで使って動けなくしてきた。
・・・フツーにありえないと思う。
ちなみに制服のほうも沙理奈が治してくれていた。買い換えなくて良かった。
武の話によると、新藤は記憶はなかったものの、突然にまた言霊が使えるようになったらしい。
沙理奈さんは勿論早速事務所のメンバーに仕立て上げた。
ちょっと疑問が残ったが、まあいいだろう。
明日からは、高校生活だ。どんなことが待ってるのやら・・・
そんなことを考えながら、俺の意識は闇へと落ちていった。
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