第二十八話「また新しく」
「・・・・・・ー・・・・やー・・・・つやぁ・・・・たつやぁ!!!!」
・・・・・・・・・む?むぐぅぅ・・・・・・・・待て、おい、やばいって・・・・・・・
「・・っがはっ・・・はぁはぁはぁ・・・」
・・・・最悪の目覚め方だ。俺の右手にはさっきまで俺の顔の上に乗っていた宗治狼(狐モード)がいた。
「龍哉ぁ、よかった!死んでないよね?」
「・・・今どっかの誰かのおかげで死に掛けたところだ」
「よっ、目ぇさめたか?」
俺は卓弥の存在に気づく。そして、辺りを見回し、ここが俺の家であることを確認する。
「・・・卓弥、聞きたいことは山ほどあるが・・・」
卓弥がテレビを消す。つうか勝手に見てんのかよ・・・・・・
「まず、お前は何でこいつが喋ってるのに驚かない?」
俺が指したのはもちろん宗治狼だ。当の本人はいまだ俺の右手につかまれ、他人に正体をさらしたことを悪びれる様子もなくぶら下がっている。
「ああ、ソイツは生霊だろ?驚くほどのことでもないと思うんだけど」
あまりに整った答えに、俺の疑念は逆に膨らむ。
「何でお前が生霊の存在を、言禍霊の存在を知ってる?いや、それよりなんで言霊を・・・」
「ストッーーーープ!!一度にそんなに聞くな。自慢にならんけど俺は聖徳太子じゃないんだぜ?」
確かに、それもそうだ。ちなみに聖徳太子のたとえをここで出すのは間違ってると思う。聖徳太子は十人の言うことを同時に聞き取れたっていう伝説を残してるが・・・ってどうでもいい!!
「それで?」
「何から言えばいいかな?・・んじゃあ言霊のことから!・・・あれは三年前・・・」
俺は一言も逃さず聞き取ろうとしていた。宗治狼も場の雰囲気をようやく察したようで、おとなしくしている。
「俺の目の前にひとりの老人が現れた。そいつは言った。『勇者よ、お前の力が必要だ』俺は答えた。『勇者?俺が?』『そうだ』そいつは言った。『お前はまだ自分の力に目覚めていないだけだ』んで、中略。そんで俺は言霊に目覚めて、今も人間界に潜む魔王を倒すために・・・・・」
「・・・・・もういい、死にたいのなら別だが、まともに話せないのか?それにお前は信じるな」
俺は右手につかんでいた宗治狼を揺さぶる。宗治狼は、「え!?今の話ウソなの!!?」とか言っている。
「仕方ない奴だな〜〜〜。ほんのジョークなのに・・・」
「“正輝”」
それ以上何かを言う前に、俺は正輝を呼び出して卓弥に斬りかかる。
しかし、それは難なく卓弥に防がれた。その両手の言具によって。
「あぶ、あぶ、あぶ・・・ねぇなっっ!!いきなり斬りかかるなよ!!」
「なった過程はもういい。その、双雛って言具は、どうやって・・・・・・・?」
またくらっときた。あわてて宗治狼が俺に駆け寄る。
「ばか、まだあんま言具に慣れてないんだろ?やたらめったら使うなよ」
そういいつつ、卓弥は『双雛』を消す。俺も正輝を消した。途端に気分が良くなる。
「・・おまえ、こうゆう知識を何処から仕入れたんだ?」
「知りたいか?」
意味ありげに笑うので、余計に興味をそそられる。
「倉庫にあった本から、さ」
・・・・・・は?ってことはこいつの家には言霊師の先祖がいたことになる。
「ま、そんなことはどうでもいいんだけど。とにかく、言具は慣れてないときついと思うぞ。最初のうちはあまり使うもんじゃない」
沙理奈たちが言ってたのはこのことなのか?俺は昨日のことを思い出していた。
そういえばまだ24時間もたってない。いろんなことが起こりすぎたせいだろう、時間の感覚がおかしい。
「じゃ、俺は帰るから。また明日な〜〜〜〜」
「・・・あ、え?おい、ちょっと・・・・・」
バタンッ!!
「・・・・・・・・結局あんまりは聞けなかったな・・・」
「そういえば、龍哉、いつ言具なんて使えるようになったのさ」
宗治狼が少年の姿になりながら(使う言霊はもちろん“変身!!”)、俺に聞く。
「つい、昨日だな」
宗治狼はそれ以上聞いてこなかった。俺はふと思いついて、今の時刻を確認する。
7時20分ちょっと。まあ、ちょうどいいか。
「宗治狼、お前飯作れたよな、つくってくれ」
「え・・・なんでさ〜〜〜。龍哉、最近料理の修行みたいなことしてなかった?」
「いいから。それから、もし俺が寝たりしたらすぐに起こしてくれ」
「・・・・?まあいいけど・・・・そのかわり」
「わかってるって。明日油揚げ買ってきてやるから」
それを聞くと宗治狼はおとなしく料理をしにいった。
ちなみに俺が最近料理の修行をしてるのは本当だ。冬休み中に何度か夏葉の料理を食って、今のままじゃいつか生活習慣病になりかねないと思えてきたのだ。
それで、教本を見てつくれるレシピを増やしている。
それは置いといて。俺は早速考え付いたことを実行に移した。
「“正輝”」
よくわからないが、言具って奴は普通の言霊より力を使うらしい。ってことは、筋トレのごとく負荷をかければ鍛えられるように、この状態になれて、ついでに力の容量をふやす!!
俺の考えがあってればこの方法でどうにかなるはずだ。
・・・・・・・・・ぅあ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、早速気持ち悪くなってきた。
けどこのぐらいでねを上げてたら駄目だ。朝まで修行だ・・・・・
翌朝。
「おう、龍哉。おは・・・・・・なんだ?おまえ、その目の下のクマ」
「五月蝿い・・・・・」
結局11時ごろまでしかもたなかったのだが、それでも三日分ぐらいの体力を使った。
「おす!龍哉!!栄えある俺様のファン第二号よ!!」
優哉だ。朝からこいつのハイテンションにつかまるとは運がない。
「どうした?元気なさそうだが。けど俺様を見れば一発で元気回復だな!」
意味不明な自信。言葉でも力でも抵抗する気がうせる。
ふと前を見ると、夏葉が来ていた。今日も俺とは目を合わせないように気をつけている。
「よう、卓弥」
口調は男っぽいが、妙に高めの声。見ると女が2人たっていた。
「おっと、そんな睨むなって。え〜〜と」
「深月さん、ですよね」
もう一人が声を出す。男口調は短髪の女、その次はおしとやかそうな長髪を束ねた女だった。
俺は男口調の言葉に疑問を感じ、すぐに自分が見上げたとき、睨んだような目になっていたことに気づく。
「・・あ、ああ、すまん。睨んだつもりはなかったんだ」
あわてて謝る。それに対して男口調は豪快に笑った。
こいけたつき こしがいあや
「そういや龍哉と優哉とは初めてだったよな。紹介するぞ。髪の短いほうが小池樹。長いほうが越谷綾だ」
俺は樹と綾は会釈を交わす。
「卓弥、お前もうこの学校の女に手を出してるのか?」
優哉のごもっともな指摘。卓弥は苦笑いして「んなわけねーだろ」と否定。
「ま、友達ってことだ。それより、龍哉。昼にでもちょっと・・・・・」
「おらーーーーかわいくもなんともない子羊ども、ホームルーム始めるぞーー!!」
谷口がやってきたので会話は中断された。毎度毎度変なタイミングで入ってくる・・・
「そんで?話ってのは?」
俺たちは外で話をしていた。今日は一日かけて体力テストだそうだ。
「ああ、実はな、樹と綾は鈴音と仲がいい。ま、単に接しやすかったから俺も接近したんだけど。それで、お前最近鈴音と仲悪いだろ?それでちょっと解決してやろうかなってな」
俺たちは100メートル走の順番を待ちつつ話をしていた。
「・・・余計なお世話だって」
「そうゆうな。第一、お前なんでこうなってるか予想立ってるか?」
「いや、まったく」
前では優也が走り終わったところだ。・・・ってちょっと待て・・・タイムは・・10秒台!?・・・・
「お前ホント鈍いよな。おとといのことで何か思い当たることなかったのか?」
おととい・・・俺が死に掛けたことぐらいしか・・・。俺は首を振る。卓弥の溜息が癇に障る。
「あれだよ。前にもあっただろ?からす事件のとき」
何でこいつ知ってんだよ。するとずいぶん前から俺を見張ってたことになるな。もちろんおとといもだろう。
乱入者の剣はこいつのだったから。
・・・・・っは、こいつって俺のストーカーか?
「次の奴前へ!!」
俺たちの番。準備をしつつも話は続ける。
「たしか・・・あいつは俺にキレて、それで・・・・」
「自分を責めてただろ?」
パァンッッ!!
途端に全員走り出す。全力で走りながらも会話は続ける。
「ああ、けどそん時俺は気にするな、といったぞ」
あえて卓弥がそこまで知ってることにはつっこまないことにした。疲れるだけだし。
「わかってねーな。女ってのは結構引きずるもんなんだぞ?」
余裕でワンツーフィニッシュ!!タイムも上々。
「ホンットに女ってわからないな・・・」
俺たちの組が最終組だったらしく、全員のタイムが出た。
1位:優哉(化け物だ、という声が上がったが、俺もそう思う)、2位:卓弥(俺はなぜかこいつに勝てない)、3位:俺。
「フフ、俺様の知名度もこれで超上昇すること間違いなし!!」
「まだまだ君には負けんよぉ、龍哉君?」
卓弥の野郎・・・・・
「待て!!君たち!!」
何だ?ほかの奴はさっさと次の競技に行ったにもかかわらず、残ってた俺たちに話しかけてくるなんて。
「君たちだね?トップからの三人は」
眼鏡をかけてそこそこ長めの髪をしたそいつは、ぶしつけに話しかけてきた。
「そうだけど?俺らになんか用か?」
卓弥の問いに、ソイツはタイムの張られた掲示板を指した。何だ?4位のところ・・・?
すぎしましょう
「そう、僕は4位の杉島湘だ。油断してなければ1位になっていた男だよ」
そこでソイツは前髪をこれみよがしにかきあげる。なんかむかつく奴だな・・・
「だがもう僕は容赦しない!!全力で君たちに勝つ!!」
・・・・・・はぁ!!!!?????
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言霊へモドル