第二十九話「わからずや2人」
まったく話の筋がわからない。
あのあふぉ、つまり、眼鏡野郎、え〜〜と、湘、だっけか?がいきなり体力テストでの決闘を挑んできた。
「僕は常に1位にいる男。それは勉強でも、運動でも、芸術でもだ!!君たちには負けない!!」
だそうだ。
で、ほかのふたりはというと、
「俺たちに喧嘩売るなんて度胸あるじゃん!受けてやるぜ!!」
「俺様より目立とうとするとは、許せないな!!いいだろう、屈服させてファンにさせてやる!!」
で俺も強制参加。
現在5種目め、80メートルハードル。
やっぱり優哉は圧倒。(タイム言うと俺が正気を保てなくなりそうだから却下)次は卓弥。ラストに俺と湘が走ることになった。
「よーーーい・・・」
ばぁあんっ!!
スタート!!一気に第一ハードルにまで辿り着き、跳ぶ。ここまでは互角だ。だが・・・・・
日ごろ(主に沙理奈の)重労働や仕事で鍛えてる俺には勝てまい!!
やっぱり俺が(僅差で、だが)勝った。
さすがに、きつく、なってきた。こんななら、昨日あんなこと、正輝の特訓とかしなきゃ良かった・・・
「・・・・俺の勝ち、だな」
「これで5戦5勝だな。どうする?湘」
すっかりなれなれしい卓弥。湘は不適にも笑って、こういった。
「ふん、タイムでは何とでもいえるさ。けど君はハードルを倒したろう。まああれさえなければ僕の勝ちだね」
一応ルール上は倒しても問題ない。が、やっぱりむかつく・・・・
「次こそは勝ってやるよ」
「どうかな?俺の人気には勝てないだろう」
かみ合ってないって、会話が・・・・
「次、3000メートル走!!そん次は1万メートル走だ!!」
・・・・・・え?俺の聞き違いだよねっていうか聞き違いであってほしい!!
「長距離か。僕の得意分野だね」
「俺たちには弱点はないよ」
「このあふれるスター性で絶対に勝利だな!!」
・・・・・・俺は現実を受け止めることにした。もしかしたら今日家までもたないかも・・・
「はっはっはー。結局俺たちの完勝だな!!」
「今日は俺様の知名度もグーーーーンとアップしたな!!」
「・・・・・・・死にそうだ・・・・」
「しかし君ら結構おかしいよ。僕は中学では陸上の大会で敵なしだったのに・・・」
昼食の時間。俺たち4人はなぜか意気投合していた。優哉と卓弥が負けて打ちひしがれてる湘に声をかけた。
そんで飯を食いつつ話をしてたら、なんか俺も打ち解けてしまったのだ。
ちなみに結果はすべての競技で1位優哉、2位卓弥、3位俺、4位湘だ。初めて知ったのだが、湘もうちのクラスだった。
つまり、学年の4位までが一クラスに集中してることになる。まあ、どうでもいいが。
昼間とは打って変わって親しみやすい湘。人見知りする奴だったら友達になれなそうなタイプだな。
しかも自尊心とかプライドが異常に強いのは変わりない。
中学で友達いたのか?と疑問に思う今日このごろ・・・
「ああそうだ、龍哉」
卓弥が俺に話しかけてくる。優哉と湘は腕相撲をしている。なんかすさまじい闘気を感じる・・・
「今日の放課後、部活行かないでちょっと待ってろよな」
「何でだよ」
俺は疲れで(3000メートルと1万メートルを同時にする意味があるか?)、どうでも良くなっていた。
腕相撲で優哉が湘を圧倒している。手首で持ちこたえる湘。別に湘が弱いわけではなく、優哉が化け物なのだ。
俺が言霊や言具なしでやったら瞬殺されるだろう。
「何でって・・・ほら、あれだ。サマーリーフっていうか・・・」
とりあえず卓弥の口をふさぐ。気づかない俺も悪いのだが、人前でもっともらしく疑われるようなことを言う卓弥も許せない。
「わかったから黙ってろ」
テーブルでは死闘の勝敗が決していた。湘がテーブルに突っ伏し、優哉がテーブルの上でポーズをとっていた。
「・・・・どうゆうことだ?」
俺は放課後屋上にいた。とゆうよりドアの後ろで屋上を覗いてるといったほうが正しいか。
その屋上には夏葉と、あの2人―樹と綾がいた。
「わからないかなぁ、あの2人に協力してもらってるんだよ」
そんなことはわかるが。問題は・・
「まあ少し問題もあって。あの2人はお前と夏葉が単なる友人という関係を越えて恋人という関係にまで発展してると思ってるらしいんだなこれが。ってちょっと待て!頼むからそれをしまえ!!」
言われなくても言具を出すだけの体力がないといってもいい俺は、すぐに正輝をしまった。
そういえば卓弥自身のことについて聞けてなかったな。核心に迫っても気づくと話をそらされてる事が多い。
「よし。2人が帰ってくる。手はず通りだ・・・」
2人がドアを開ける。俺と卓弥はすぐに脇によける。って、ちょっと待てよお前ら!!!!
抵抗もできずにあっという間に屋上に放り出される。後ろで鍵のしまる音。
顔を上げると夏葉がおどろいた顔をし、そして気まずそうに顔をそらす。
気まずいのはこっちもだっての。いきなり2人っきりとかさ、いや待て、変な意味じゃないぞ。
落ち着け。とりあえず話をすることから始めよう。
「・・・夏葉、元気か?」
「・・・龍哉は?・・元気そうじゃないけど」
う〜〜〜〜〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜なんか会話がつながらない。俺はこうゆうの苦手だ。
「・・あ〜〜〜、一昨日の怪我はもう平気なのか?」
途端に夏葉の顔に厳しさが増す。なんか表現しづらい表情だ。
「・・いや、なんでもない・・・」
俺もなんか気まずくなって会話をそらす。
・・・・・沈黙。
破ったのは夏葉だった。
「・・どうして私に話しかけてくるの?」
うわっ、メッチャくちゃ拒絶されてる。けど夏葉が微妙に悲しそうな表情をしてることに俺は気づいた。
「どうしてって・・・別に特に理由はないが・・・・」
「・・・理由がないなら話しかけてこないで」
きっついですねぇ、夏葉さん。むしろ腹が立つほどに。
「・・・え〜〜と、何でお前はここに来たんだ?」
とりあえず聞いておく。会話がないとさすがにきつい。鍵がかかってるから逃げられないし。
「・・・・・・別に、どうでもいいでしょ」
こう冷たく返されるときつい。俺はどうすりゃいいってんだ・・。
いいや、聞いてみよう。
「夏葉、お前、さ・・・・まだ気にしてるのか?」
夏葉が一瞬こわばる。
その頃、ドアの後ろでは、
「あのバカ龍哉!!タイミング悪いにもほどがある!!」
「なあ、ほんとに夏葉と龍哉はそうゆう関係なのか?」
「私、夏葉さんは三年の誰かに憧れてるって聞きましたけど・・・」
実はこの2人に龍哉と夏葉が恋人関係だと吹き込んだのはほかならぬ卓弥なのだ。
「そんなことはどうでもいいの!!ちょっと黙っててくれ!!」
「・・・お前が一番五月蝿いぞ」
「同感です」
「どうでもいいでしょ!!!!」
俺はかなりびびった。いきなり夏葉が怒鳴ってきたのだから。しかも微量ながら言霊がかかってたような・・・
「あなたには関係ない!!私のことにこれ以上踏み込んでこないで!!」
そういうと夏葉はさっさとドアに向かう。
「話してくれてもいいだろ!!」
俺は怒鳴る。俺が怒鳴ったことに驚いたように、夏葉が立ち止まる。
「俺がかかわってるんだったら、話してくれてもいいだろ」
俺も自分で怒鳴っていたことに驚いた。気持ちを落ち着けてからまた話す。
「あなたは関わってなんかいない!!関わってても言う必要なんかない!!」
夏葉はまた怒鳴る。だが、なんとなくウソを言ってるように感じられた。
「けど・・・・」
「このわからずや!!!」
俺の言葉を一蹴し、ドアに向かう夏葉。しかし開かない。
「“あけっ”!!」
言霊を使ってこじ開ける。後ろにいた三人はドアが開いたことに驚く。
夏葉は三人に目もくれずどんどん階段を下っていった。
俺は一人、まだ明るさの残る放課後の屋上で、つぶやいた。
「わからずやはお前のほうだろ・・・・・」
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