第三十話「雨降って地固まる」




あれから二日、俺と夏葉は口も聞いていなかった。

俺としては夏葉が完全に悪いと思ってるのだが、卓弥に言わせると俺が悪いらしい。

「おまえなぁ、もうちょっと相手のことを考えて駆け引きしろよ。会話も下手すぎ」

そのあと卓弥は即刻昇天したが。

とにかくそんなこんなで部活中。まだ仮入部期間だというのに、隼の奴は普通に活動をやらせる。

俺は毎日正輝の訓練もしてるから体力的に大変なのだ。

ま、その代わり成果は出た。出しておける時間が大幅に伸びた。

次は実際に戦闘で使えるかなんだが・・・

「よそ見してると痛い目にあうぞ、龍哉!」

うおっ!俺はとっさに上体をそらして隼の蹴りをかわす。後ろに飛んで体勢を立て直すも、すぐに隼の追撃が迫る。

俺はそれを右手でガード、また後ろに跳んで衝撃を逃がす。

「・・ほぉ、なかなか上達したなぁ」

「やるじゃん☆龍哉ぁ。まぁ、あっちほどじゃないけどねん」

隼と風太郎がいう。『あっち』はまた奇声を上げて闘っていた。しかし、体力テストでの優哉を見てると、互角にやり合ってる卓弥も化け物に見えてくる。

ちなみに隼と風太郎はそれ以上の化け物だ。体力的には優哉と僅差だが、喧嘩売ったら生きて帰れないと思っていい。

うわさでは、2人でこの周辺の賊を全部つぶしたとか。

「・・・おまえ、どうかしたのか?」

隼が聞いてくる。俺ははっとして隼に問い返す。

「なんか言ったのか?」

「お前最近元気ないな、どうかしたのかって聞いたんだが」

俺はボーっとしていて聞き逃したようだ。

なんとなく、夏葉に言われたあの言葉が脳裏をよぎっていたのだ。

わからずや!!

俺は、周りのことを気にしてるつもりで、自分のことしか考えてないんだろうか・・・・

「・・・はぁ」

「なんだよ?隼」

「お前ほんとに大丈夫か?また俺の言ったこと聞いてなかったろ」

記憶がない。

「熱でもあんのか?」

「なんでもない」

ちょうどそのとき、あの2人がまたまた同時にKOしたところだった。これで確か4戦4分か。

「今日はもう終わりにしたほうがいいんじゃないの〜☆」

風太郎がいう。微妙に俺を見てウインクしていた。

「だな。おっし、今日はこれで終わり!!土日はないから安心しろ〜〜〜」




「・・・・・・・・はぁ」

「どうしたんだよ〜〜〜夏葉。まだ怒ってんのか?」

「・・・・・・・・・」

「夏葉ちゃん?大丈夫?」

「・・・あ、ううん。怒ってないよ」

「ホントか?」

「ホントよ。さ、次は何処の部活見に行こうか」

夏葉たちは部活見学に回っていた。あらかた見てしまい、ほとんど見るものも残ってはいないのだが。

樹はこっそり溜息をつく。

この二日間、表面上はこれまで通り(樹たちに関して、は)だったが、明らかに無理をしてる感じだった。

昨日、もしかしたら怒鳴られるかもしれないとも思ったが、夏葉はむしろこれまで以上に元気だったのだ。

それが樹には妙に作り物めいて見えてしまうのだ。恐らく綾もそう思っているだろう。

「どうする?ねぇ」

「あ、私今日は習い事があるんでした。お先に失礼しますね」

綾がいう。そしてさっさと行ってしまう。

「あ、うん、それじゃあ・・・・・・・・」

夏葉が樹を見る。

「あいつは結構忙しいらしいしな。俺たちもそろそろ帰ろうぜ?あらかた見たんだし」

「・・・ん、そうね」

2人は帰路に着く。瞬く間に樹と分かれるところまで来た。

「じゃあね」

「ん、じゃあな・・・・」

そこでちょっと戸惑い、樹は夏葉に向かって言う。

「夏葉ーーーーー!!!」

夏葉は振り返る。樹はちょっと迷って、そして言った。

「迷ってないで積極的にいけよ〜〜〜〜〜!!!!――――じゃな!」

そして樹は走り去った。




俺はひとりで帰っていた。卓弥と優哉はまだ部室でのびている。

あたりはまだ薄暗くなり始めたところだった。

ふと目をあげる。いつの間にか、前に人がいた。

夏葉だった。

俺は無意識のうちに歩幅を縮めている自分に気づいた。

――――なんでだろうな・・・・

本の一週間前までは普通に話してたのにな。遠くなってみると、結構つらいもんだよな・・・・

友達が少なかったからかもしれないけど、妙な気分だな・・・・・

夏葉はどうなんだろう。何も感じてないのだろうか・・・・・




夏葉は後ろを横目で確認した。

――――龍哉・・・・

その姿を見るだけで、胸が痛かった。

自分が巻き込んだ人。けど、それを責めてない人。

けど、ついこの間、私を守って死ぬほどの大怪我をさせてしまった・・・・

私と会わなければ、私のそばにいなければ、こんなことにはならなかった。

私があの時、見逃していれば、この道に引き込んでいなければ、こんなことにはならなかった。

全部、私のせい。わたしの・・・・・・・・・

私のせいで人を死なせたくはない。だったら、友達をやめてでも・・・・・・

・・・え、この、気配・・・!・・

「危ないっ、夏葉ぁ、“伏せろ!”」

・・・体が・・・・




言禍霊!なんで夏葉は反応しないんだ!!

「危ないっ、夏葉ぁ、“伏せろ!”」

俺は言霊をかけて、それでようやく夏葉が攻撃をよける。

現れたのはモ○ラみたいな巨大蝶々。一気にこっちに向かってくる!!

「くっ、“正輝”!!」

その攻撃を受けつつ、部活のときのように後ろに飛んで衝撃を減殺する。

いくら出しておける時間が延びたとはいっても、戦闘ではまだ三回目だ。一気に決める!!

「“大地よ、槍となれ!!”“正輝、貫け”!!」

アスファルトを貫通した土の槍がモ○ラの動きを止め、青竜円月刀がきらめく!!

言禍霊は一瞬で塵と化した。

余談だが、モ○ラは蛾の怪物だったということをどっかで聞いた気がする。

って、そんなこといってないで夏葉は!!??

「“消えろ、正輝”」

そしてすぐに駆け寄る。

「大丈・・・・」

「何で助けたの?」

まぁたこれか。何度目だろう・・・・俺はいい加減呆れていた。

「私はあなたにあんなひどいこと言ったのよ!!それなのになんであなたは私を助けるの!?何で私に近づくのよ!!なんで・・・・・」

そこまで言って夏葉は止まった。入学式のときのように、うつむいて黙っている。

俺がしゃがんで覗き込む。

――――――――――泣いて、いた・・・・・

声も上げることも堪えて、ただ涙を流していた。

あのとき、俺が血だらけになって鬼を倒したときも、泣いてたんだろうか・・・・

「・・・おい、夏葉・・・!!!??」

いきなり腹を殴られた。油断していた所為で、地面にひざをつく。

「私の涙の料金は高いの」

言った夏葉は、泣きながら、それでも笑っていた。

俺は溜息をついて言う。

「・・お前、また自分を責めてただろ」

夏葉の沈黙を肯定ととり、続ける。

「まあ、好きなだけ責めればいい。自分がやりたいようにやれば」

夏葉が驚いたように顔を上げる。

「けどな、お前一人の問題じゃないんだ。それに、友達とか仲間とかもいる。助けてもらってもいいだろう」

夏葉は黙っている。なんか状況によって同じ言葉でも効果が違うなぁ。

「・・さて、もう言禍霊の気配もないし、帰るか。・・・・・・家まで送ってってやろうか?」

俺は照れくさくなって会話を止める。夏葉は立ち上がった。顔は良く見えなかったが、心持ちこの一週間の雰囲気とは違っていた。

「いいよ。それじゃあ」

「ああ」

俺と夏葉は逆方向に向かう。なんにせよ、これで解決だな。




―――自分は勝手だったんだな。

―――自分ひとりで一人で背負い込むなんて。

―――これで何回目だろう、助けてもらったのは。

―――命だけじゃない。

―――心も。

――――――次に会うときは

―――きっと

―――きっと

―――あの言葉を言おう。

―――いえなかった、

―――あの言葉を




月曜。

俺はやっぱり寝不足だった。

学校はいつものように始まって、

卓弥と、優哉と、湘と、それから樹と綾と夏葉がいて、

けどちょっと違っていた。

「おっす、龍哉」

「我が栄えあるファン第二号よ、おはよう!!」

「長いって、優哉。おはよう、龍哉」

「おす!いい土日だったか?俺はまあまあだったけど」

「おはようございます、龍哉さん」

「龍哉・・・・」

みんなが夏葉を見た。

「・・・おはよう!!」

満面の笑みで、そういった。

俺は、しばらくぶりに自然に笑うことができた。

「おはよう、みんな」




そのあと、ほかの5人から質問攻めにあったのは言うまでもない・・・・・・




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