第三十三話「夏休み」
暗い部屋。中で光るコンピューターなどの機器。
ドアが開き、男が入ってくる。
かずまさ
「・・・まったく、電気ぐらいつけてもいいだろ・・・・・和雅、・・おいカズ?」
入ってきた男に呼ばれた男が、デスクの下から顔を出す。
じゅうじ
「・・・何だ、お前か・・・・てっきり戎璽様かと・・・・」
「寝てたな?」
和雅は答えない。
「・・・まったく、ほかのやつは?」
「寝てる」
入ってきた男は溜息をつき、和雅に全員を起こすように命じる。
コ コ
「・・・けど仕方ないな、毎日徹夜だ。日本支部の層の薄さをわかってるのか?あの人は・・」
「誰のことじゃ?」
いつの間にか部屋に入ってきていた老人が言う。
「・・・何でもありません。戎璽様」
「・・・御主、相変わらずいい度胸しとるのぉ・・・」
男は考える。
ほぼ一年前、世界本部からやって来たこの男は、ついてからすぐに日本支部の総司令になった。
本部に問い合わせてみたところ、以後この老人に従うよう、と連絡が帰ってきた。それによって自分の仕事はほぼなくなったわけだが。
―――相変わらずだ、この老人は。
辺りを見ていると、ほかの支部員が起きだし、戎璽を見るとすぐにたたずまいを直し、仕事にかかる。
―――能率は確かに上がったな・・・・
「それで?新しい反応はあったのかの?」
けいすけ
戎璽にたずねられ、元支部局長の男――慶輔は答える。
「ありました。4月、あなたが出かけてからすぐの頃です」
戎璽はあごひげをなでる。この老人は、時々どこかに行っていて、忘れた頃にひょっこりと帰ってくることが多いのだ。
「・・・・場所は・?」
慶輔は一拍置いてから答えた。
「・・港市です」
「やっと夏休みかぁ〜〜〜」
「卓弥、お前へばりすぎだろう」
「いや、龍哉、夏休みは崇高なものだぞ!俺様も楽しみにしていた!!」
「けど三人とも、課題を忘れずにねぇ」
俺たち四人は終業式の日の放課後、教室で雑談をしていた。俺に言わせれば、一学期は結構あっという間だったが。
「・・やなことを思い出させるな、湘」
「そうそう。俺たちにはそんなものはな〜〜い、と思い込んで忘れようとしてるとこなんだから」
と卓弥。
そこへ、夏葉たち三人がやってくる。
「お〜〜い、お前ら、最初の一週間暇か?」
と樹が聞いてくる。優哉が答える。
「もちろん暇だよな?新部長?」
「ああ、そうだなぁ♪」
卓弥が続ける。
隼たちが名目上退部しなければならなくなったため(当人たちはこれからも来るそうだが)、新部長を決めなければならなくなった。(というかあの2人はこれからの進路のことを心配すべきでは?)
そこで、候補に挙がったのが俺と卓弥(言霊を使えるので)だったのだが、例のごとく優哉が、
「俺様こそ部長にふさわしいでしょう!!卓弥よりも、絶対!何なら勝負してでも・・・」
と、騒ぎ出した。そこで隼の機転。
「お前は部長ではなく、総合戦闘師範になってもらうから。お前以外にその役はいないんだよ。部長なんて誰でもできるけど、この役はかなり特別だからなぁ・・」
それで万事丸く収まった。(俺は面倒だったので部長の話を拒否)
夏葉の声で回想から引き戻される。
「だったら、みんなでキャンプに行かない?」
「キャンプって・・・・・」
湘はそう言うが、なんだかうれしそうだ。
「夏葉さんの知り合いの方が連れて行ってくれるそうです」と綾。
「龍哉は知ってるよね?沙理奈さんの立てた計画だし」
俺は思わず立ち上がり、椅子を倒してしまった。
「・・・沙理奈さんが・・?そんなこといってたか・・・?」
「あれ?聞いてなかった?春季球技大会の後に言ってたんだけど・・・・」
あの悪魔の大会の後か・・・・聞き逃してたのもしょうがない、と、思う。
「いつものメンバーと、あと何人か誘ってもいいって言われたから」
夏葉は笑う。ほかのみんなは結構不審げだ。
「夏葉、いつものメンバーって、なんだ?」
樹の質問に俺が答える。
「知り合いのとこでよく会ってるやつらだ。といっても、お前らが知らないやつはあまりいないと思うが」
たぶん沙理奈・拓実は知らないだろう。武はどうかは知らんが、宗治狼も(人間型なら)卓弥は知ってる。
・・・・というか、卓弥はあの申し出を受けたんだろうか。最近事務所に行ってないからなぁ・・・・
「んじゃ、みんなオッケーみたいだな。んで鈴音さん、日時は?」
と卓弥。
「25日から。予定は一拍二日。オッケー?」
各々うなずく。
「じゃ、なんかあったら携帯で連絡するから。そうゆうことで。・・・あ、龍哉、今日は顔出しなよ」
夏葉はそういって、樹と綾と一緒に部活に行った。
残った俺たち。鞄を持ちながら卓弥に尋ねる。
「どうする?新部長。今日は部活ありか?」
卓弥は答えない。不審がってみると、三人でなにやら話し合っていた。
聞き耳を立てる。なんとなく予想できるが・・・・・・
「あれか?やっぱりあの2人はできてんのか?卓弥」
「僕にはそうとしか見えない・・けど・・・・どうなんだろう」
「やっぱり、4月のとき仲直りしてからだな。きっとその後―――ぶっっ!!」
「何をくだらん話をしてるんだ。言っとくが俺と夏葉は単に例の知り合いのところでの腐れ縁だ」
俺に脳天を叩かれた卓弥はもちろん聞いてないだろうが、ほかの2人に言っておく。
「ほんとか〜〜?龍哉」
「ま、まあ、龍哉はあまり嘘つかないし。信じてあげようよ」
ありがとう、湘。お前は俺の味方だ・・・・けど微妙にホッとしてるのは何でだ?
「それで?今日は部活は?」
「・・・ってーー・・・イタタ・・・今日はないそうだ。隼さんからの伝言」
「じゃあ次に会うのはキャンプってことになるのかな?」
「夏休み中は?」
俺は一応聞いておく。
「愛好会だしな。テキトーにいこう。なんかあったら隼さんから連絡来るだろうし。そりゃそうと隼さんたちもキャンプ来るのか?」
「俺が知るか。さて、帰るぞ」
俺はさっさと教室を後にした。
「しかし何でまたキャンプなんて?」
事務所。拓実が巨大なコンピューターとにらめっこしている沙理奈に聞く。
「単に楽しみたいんですか?」
沙理奈は眉間にしわを寄せたまま答える。
「ま、それもあるけどね」
拓実は微笑む。そして思いついたように、真顔になる。
「・・・・・もしかして、例のことの・・・・・」
沙理奈の動きが止まる。そして息をつく。
「・・・・一応ね。ハヤが来られないのは残念だけど」
そしてまたキーボードを叩き始める。
「・・・・そろそろあの人も動いてくるわね・・・・龍哉のことで」
そのつぶやきは、しかし、拓実にも聞こえなかった。
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