第三十四話「キャンプ」
「慶輔〜〜〜〜、俺に休みをくれぇ〜〜〜〜」
「無理だ、和雅。戎璽様にでも頼め」
「局長、そういえば何ですぐに港市と断定できたんですか?可能性のある場所は港市から半径100キロでしたよね?」
「ああ、それはな・・・」
「秘密局員がいるから、だよなぁ?慶輔」
「黙っとけ、和雅」
「絶対いるって!!」
いきなりした大きな声に、慶輔、和雅、それに質問をした局員は会話を中断する。
「いるわけないだろ、竜なんか。このご時勢だぜ?」
「いや、いる!絶対にいる」
「何の話をしている」
慶輔が割り込む。ようやく2人の局員は自分たちが注目されていることに気づく。
「・・・いや、こいつが竜がいるって言い張るもんで・・・・」
「いるんだよ、絶対に!」
ほかの局員は溜息をつく。そんなことか、竜なんかいるはずない、と。
しかし慶輔の口から飛び出したのは驚くべき言葉だった。
「ああ、竜はいるぞ」
肯定派の男は顔を輝かせ、そのほかは絶句した。
「・・・・なんだ、いないと思ってたのか?」
「・・・・・・・・」
「生霊として存在が確認されたのが、公式では104年」
慶輔は言う。
「その後、協会ができてからも確認され、824年に正式に生霊として分類される」
全員が聞き入っていた。
「そして、最後に確認されたのが第一次世界大戦中。それ以後は確認されておらず、一部からはもう天然では存在していないとされている」
「ってことは、今はいないんですか?」
「そう思ってる奴もいるということだ。俺はまだ存在していると思うがな。さぁ、仕事にもどれ」
その言葉で、全員がそれぞれの速度で仕事に戻り始めた。
「うおーーーーーー!!!すっげぇ〜〜〜〜〜!!」
「確かに!きれいだね〜〜〜〜〜これは!」
俺たちは目的地の山までついた。
早速卓弥や樹が声を上げる。ほかの面々もそれぞれ自分なりに気持ちよさを表していた。
「は〜〜い、それじゃ早速テントを張るわよ〜〜。拓実、龍哉、それに武。ああ、それからそっちの男子たちも手伝って〜〜」
沙理奈の声。その声に俺たちはテント用具を取りに車に向かう。
此処までは沙理奈と拓実の運転する車で、二台に分かれて来たのだ。よって、荷物もその中だ。
ただ、沙理奈の車に乗ったメンバー(俺、卓弥、優哉、湘、宗治狼)は大変だった。
すさまじいテクニックで、半死半生の目にあった。立ち直ってるのは卓弥と、まだ慣れてるほうの俺だけ。
また、武と卓真も大変だったらしい。向こうの車で、樹と綾のいい様にされてたらしい。
到着すると同時に、武と卓真は俺たちのところに逃げてきた。
「ああ・・・・・うう・・・・・うぁ・・・」
「だ・・・だだ・・・・だいじょう・・・・ぶぶ?・・・・たけ・・・る・・・君・・・・?」
何があったか想像もつかない。というか想像もしたくない。
卓真を誘ったのは武だ。それ以前に俺の知らない間に事務所員になってたのだが。
まぁ、言霊を使えるやつを沙理奈さんが見逃すわけもなし、ってことだ。
俺たちはテントを張り終え、少し休息をとる。
朝出てきたから、まだ昼間だ。昼食は途中でとったので、夕飯までやることがない。
・・・・・・・しばらく休憩ってのも悪くない。
と思ったのもつかの間。
「みんな、夕飯の準備をしなさい〜〜〜!!」
沙理奈が大声で言う。みんなは不審そうだ。こんな昼間からか?まだ1時過ぎだぞ?
・・・・ここで俺はあることに気づく。荷物の中には・・・・
「沙理奈さん、もしかして食料もって来てない・・・?」
「失礼ね、ちゃんともってきてあるわよ。私の分だけ」
おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!
ほかのみんなも絶句している。沙理奈だけがすました顔だ。
「ということで、川の魚を取るもよし。山菜を探すもよし。これこそホントのキャンプ!!」
もはや、つっこむ気力もうせた。
「じゃあ、川組と、薪組と、山菜組に分けるからねぇ」
こうなるともうだれも沙理奈を止められない。あっという間に分担が決まった。
川組:優哉、湘、卓真、武
薪組:夏葉、樹、綾、拓実
山菜組:俺、卓弥、宗治狼
何もしない組:沙理奈
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「宗治狼〜〜〜まだか〜〜〜?」
「そんなにすぐ見つかるわけないだろ〜〜〜」
俺たちは山の中を散策していた。宗治狼には狐状態で嗅覚を働かせてもらっている。
「しっかし、相変わらずあの沙理奈のあねさんはきっついねぇ」
卓弥は苦笑いしている。たぶん6月のことを思い出しているのだろう。
「あの人はいつでも唯我独尊だからな。俺がいかなかった数ヶ月でさらにヒートアップしたような気がする」
山道を歩くのは容易ではない。が、こうやって自然の中にいるのは悪くない。
「・・・・・・ん!?」
「どうした?宗治狼」
「こっちから、山菜のにおいがする!!」
「でかした!!宗ちゃん!!」
俺たちは急ぐ。山菜のある場所に辿り着くまで、さほど時間はかからなかった。
「わ〜〜〜お、龍哉、こりゃすげぇなぁ」
「ああそうだな。宗治狼のおかげだな」
「ふふ〜〜〜ん、見直した?ぼくのこ・・・・・・」
「・・・・どうした?宗治狼」
急に宗治狼が何かに反応したので、俺もそちらを向く。卓弥は山菜を取っている。
「・・・あっちから、微弱だけど・・・・言霊の反応がある。・・・生霊・・・・もしかしたら言禍霊かも」
「・・・・いってみよう。卓弥」
山菜取りに夢中で聞いていない。俺は思い切り卓弥を蹴飛ばした。
「いでっ!!!・・・・っつーーー、何だよ?」
「言禍霊かもしれない。いくぞ」
「・・・・はぁ?もうちょい詳しく・・・って待てよ!!」
俺たちは洞窟の入り口に辿り着いた。
「・・・この中からだよ」
「・・・・・この中に言禍霊がいるのか?おい、龍哉?」」
「・・・・・結界、中から、か。それも物理的なものも通さないようにしてある。ご丁寧な言禍霊だな」
宗治狼と卓弥はこっちをみて驚いた顔をしている。なんか俺変なことしたか?
「・・・龍哉、そんなことまでわかるのか?」
「・・・確かに、三重に結界が張ってあるね。けど、集中しないと僕でもわからないよ?」
「・・・お前らな、俺だって一応修行してるんだぞ?」
といっても、この感知能力は正輝の修行で身につけた副産物だが。
「それより、どうする?外からは入れそうだが、1回入ると出られないかもしれないぞ」
俺は話を引き戻す。
「僕がここで待ってるよ。出るときに一時的に結界を弱められるように」
「宗ちゃんそんなこともできるのか」
「当たり前だよ!僕は千年弧だよ?」
宗治狼が人間状態に変身し、胸を張った。
「それじゃあ、任せた。卓弥、行くぞ」
「へいへーい。深追いはしないようにしようぜ」
俺たちは結界を通り抜け、闇の中へと入っていった。
第三十五話へ
言霊へモドル