第三十五話「山の主?」
「・・・・・暗いな・・・」
「言霊使ってもいいんじゃねぇの?龍哉」
「中に何がいるかわからないのに不用意なことはできない」
「ってことはこのまま進むのか・・・うぁ、なんか変なもん踏んじまった」
洞窟の中に入って10分ほどたった。まだ何もめぼしいものは見つかっていない。
が、結界の中に入ったとたん、強力な言霊の反応を感じるようになった。
・・・そろそろ、だな。
「卓弥・・」
「わかってる。いつでもいいぞ」
俺たちは闘えるように準備をして、進んでいった。
「・・な・・・・!!」
「なんだ一体!!?この明るさは!」
開けたところに出たとたん、いきなり光が俺たちを襲った。
暗闇の中にいたせいで、目がなれない。
ようやく目がなれたとき、俺はとんでもないものを見た。
「・・・・・・・竜・・・・・!?」
そこにいたのは本や漫画で出てくるのとほとんど一緒の、『竜』だった。
上方から差し込む光の中で、体を寝かせ、縮まっていた。
言霊の反応はこいつから出ている。
「・・・・・どうなってんだ?こりゃぁ・・・・」
卓弥も絶句している。恐らく、言禍霊か生霊だろう。証拠に、言霊の反応は竜から出ている。
と、そのとき、竜が目を開けた。
『人の子等よ、何故に此処に来た』
竜が喋った。喋れるということは、上位の言禍霊か、生霊だ。だが、少なくとも戦意はないらしい。
『何故来たと聞いている』
「・・・結界がはってあったからだ。あんたが張ったのか?」
『主ら、言霊師か・・・・・』
卓弥は一応いつでも闘えるように準備をしている。
『我が張った。我自身を押さえ込むためにな』
俺は集中して言霊の反応を探る。巨大な反応は目の前の竜から出ている。だが、それ以外に別の、それももしかしたら竜をも上回るほど強力な言霊を感じる。
何処からだ?
『そこの小僧、いい判断だ。我はいつ自我を失うかわからぬ』
自分のことを言われたとわかり、卓弥が身構える。
竜は溜息をついた。それだけで俺たちのほうに風の衝撃が来る。
と
『疾く行け。我の力も、限界に来ている。主らを巻き込むやも知れぬ』
「・・・どうゆうことなんだ?あんたの体にかけられている言霊と関係が?」
卓弥がこっちを向き、竜の目に驚きが宿る。
『・・主、なかなかの者のようだ』
そう。さっきから感じていたもう一つの言霊は竜から出ていたのだ。竜が再び溜息をつく。
『だが、この言霊は最早解けぬ。されば、我自身の手で・・・・』
竜が動きを止める。いぶかしげに思っていると、竜が言葉を続けた。
『・・・・限界・・の・・よう・だ・・・逃げろ・・・我が・・主らを・・おそ・・・う・・前・・に・・』
竜の動きが止まった。竜の反応が、もう一つの言霊の反応に飲み込まれた。
「・・卓弥」
「わかってる!結界の外へ行けば何とかなるだろ!!!」
俺たちはどちらからともなく走り出した。
背後で咆哮。
振り向くと竜がその身を起こし、羽を広げようとしていた。
「急ぐぞ!!!」
「あ、たつ・・・」
「宗治狼、結界を開けろ!!」
「え・・え?」
「いいから早くしろ!!!」
ひら
「わかったよぉ・・・“我が命に従い、開けよ”」
俺と卓弥は一気に飛び出した。洞窟の中を見つつ、すぐに宗治狼に言う。
「さっさと閉じるんだ!大変なことになる!!」
「人使いがあらいなぁ。いや、狐使いか」
「無駄口叩かないで早く!!」
「うるさいなぁ、何が出てくるわけでも・・・・・」
ォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
咆哮。洞窟の奥から、だんだん近づいてくる。
「・・・何が出てくるの・・・?」
「竜だ!」
「竜だって!??」
宗治狼はすぐに結界を修復し、強化しようとする。
だが、間に合わない!
『ウルゥゥゥォォォォォオォオオオオオオオオオオオ!!!!!』
ついに竜がその顔を出した!
「宗治狼、とびっきり強力な結界を張れよ!!卓弥、宗治狼を手伝え!!!」
「任せて、龍哉!!時間稼いでよ!!」
「宗ちゃんは平気だろ!お前が心配だ!!」
「どっちでもいいから、いくぞ!!!“正輝”」
「“双雛”!!」
『ルァァァアアアアアアア!!!!!!』
戦いが始まった。
だが、状況的にはこっちのほうが圧倒的に有利だ。
数でも勝っている上、竜は狭い洞窟の入り口から首から先を出しているだけだ。
勝ち目はある!!
「“大地よ、敵を貫く槍となれ”!」
大地がその形を変え、槍となり襲い掛かる!!
「“風よ、我が命に従い、無数の鋭き刃となれ”!!」
風が無数の真空波となって襲い掛かる!!
『“砕けよ、言の葉よぉぉぉおおお”!!』
竜の言霊によって、俺たちの言霊が相殺される。それどころか、余剰分の言霊がこっちに向かってくる!!
「くそっ、“双雛、刻め”」
「“正輝、吹き飛ばせ”」
俺と卓弥がそれぞれ言霊を散らす。安心する間もなく竜の追撃!
『“大地よぉ、我が命に従ええぇぇ”!!!!』
途端に俺たちの下の地面がせり上がる!!
俺の言霊の比じゃない、しかもかなり省略した言霊でこの威力だと!?
「まずいっ、空中じゃあ・・・」
卓弥が叫ぶ。竜が勝ち誇って言った。
『“風よ、我が命に従えぇ”!!!』
卓弥のよりも大きい真空波が、360度から襲い掛かる!!!
卓弥は迷っていた。
―――ここで死ぬわけにも、死なせるわけにもいかない。だったら正体がばれても・・・・・
使うのか?我を
卓弥は双雛に力を篭めた。だがその前に、龍哉が動いた。
えんげつはだん
「“正輝、円月覇断=h」
途端に2人を囲む円形の膜ができた。真空波はそれに阻まれ、侵入を許されない。
卓弥は竜がいたことをこの目で見たよりも驚いた。
―――こいつ、“継承”を!?
俺は卓弥の方を向いて、いってやった。
「どうだ?今なら優哉にも勝てるぞ」
着地と同時に、俺は卓弥と同じく驚いたままの竜に向かっていった。
卓弥は我に帰る。
も
「ば・・馬鹿!お前それじゃあ保たないぞ!!」
俺はその言葉を無視する。卓弥は俺を甘く見すぎだ。
せいりょうしっく
「“正輝、青竜疾駆=h」
竜は明らかに反応が遅れた。
俺の正輝からあふれる言霊のエネルギーが、すべてを貫く槍と化す!!
『“遮れぇ”!!!』
竜の言霊と正輝とがぶつかり合う!
しかし、竜は明らかに後手。顔を吹き飛ばし、洞窟の中に戻す!
「宗治狼!!」
「ナイスタイミング!!こっちもちょうど終わるところ!・・・“万物を抑えし檻よ、ここに出でよ”!!」
宗治狼から強力な言霊を感じる。そしてさっきまで結界が張ってあったところに、新たな結界が張られる。
俺たちが闘っている最中も紡いでいた言霊だ。そう簡単には破れないだろう。
と、竜が身を起こす。俺の青竜疾駆でも、傷はあまりついていない。たぶん寸前の言霊のおかげだろう、と思いたい。
結界を破ろうとするかと思いきや、話しかけてきた。
『・・・すまぬな、危うく殺すところだった・・・・』
「・・・正気に戻ったのか?」
『・・・主のおかげでな・・・だが一時的だろう・・・』
そうゆう竜の表情は悲しそうだった。
『できるならば我を殺して欲しい』
俺は予想もしなかった言葉に驚いた。
「・・・なんでだ?あんたは生きたくないのか!?」
けが
『我は十分生きた。それに我はこの山を穢したくはない・・・』
俺は卓弥と宗治狼をみる。2人とも突然で、どうしていいかわからないようだった。
「・・・仲間に、相談してみる。俺より強い人もいるから、そのほうが・・・」
竜の顔は苦しげだった。
『わかった。我もそれまで耐えられるよう、努めよう』
「すまないな」
俺は竜に背を向けた。実際のところ、いろんなことが起こりすぎてどうしていいかわからなかったのだ。
「宗治狼、結界は?」
「できるやつの中で最高のを張った。たぶん平気だと思うけど・・・」
「そうか・・・・早く行こう」
俺たち三人は沙理奈の下へ急いだ。
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言霊へモドル