七十五話「侵入」
そこは、例えば世界の終わり。
ここは、例えば世界の始まり。
この言葉溢れる祝福された世界の源。
この言葉溢れる呪われた現世の現悪。
その前に立つのは、そこにふさわしき道化。
世界の道化にして、世界を遊ぶ遊戯監督者。
さぁ、今宵も始まる。
闇の時間が、始まる。
されど、心せよ。
これから来るは闇の対。
闇が呼び込んだ、模造された光。
ああ―――なんと美しく、はかない。
この闇を前にして、どれほど輝いてくれるか。
この闇を前にして、闇に染まった光が輝くか。
そして―――それでもお前が待ち遠しい。
そう、お前は我を楽しませるこの世界でただ双つの片割れ。
元なれば道具からの昇格にして、闇に見初められたる愚物。
ああ―――待ち遠しい。
我の望みが、双つ一辺に叶う。
「つれてまいりました」
物思いを断たれた男―――いや青年か―――の目前には、よく見知った―――否、ここに来て唯一、青年が顔を合わせる人間がやってきていた。
「遅かったな。君にしては珍しいじゃないか」
「主ができるだけ傷つけるな、ということでしたので。少々余計に手間がかかりました」
非難するでもなく淡々と告げる男が主たる青年の前に降ろしたのは、気絶した少女。
それは、彼が玩具のもとからさらってきた人質に他ならない。
「では遅れを取り戻すために、さっさと設置してくれ。いくら協会が愚鈍でも、そろそろやってくるのではないかな?」
「は、仰せのままに」
先程おろしたばかりの少女を、再び担ぎ上げる男。その前後、微かにその固まりが身を捩った。
「……ん……」
背負った男は気付いていないのか、それとも無視を決め込んでいるのか。少女の身じろぎを意にも介さず、その目が開かれるのも放置している。
ああ、と青年は思う。
前も似たようなことに、なっていたじゃないか、と。
「彼岸、『我の影』、君は少々軽率だな―――次にそいつが我を見たら、気絶では済まないかもしれないぞ?」
主たる青年の言葉に反応し、数瞬の間を置いて、男―――『闇の影』たる、彼岸は少女の背負い方を変えた。
今度はまるで姫君を召抱えるように持ち―――そして、開きかけた眼に向けて、口を開く。
「“お前は何も視えない”」
途端、ビクリ、と少女の体がはねる。
その撥ねる少女の頭部―――丁度両目の部分に、彼岸の放った言霊が絡みつくのを、青年は『視て』いた。
「…………ぁっ………これは―――」
今度こそ完全に意識を取り戻したのか、少女が体を揺らし始める。何も見えないということもわからないのか、何も見えないことを確かめるためだけにあちらこちらに目を向ける。
その目が、偶然に青年と合った。
少女はその時点で痙攣し、己を無意識に繋ぎ止める『真名』をつむぐ言霊すら、力の足りない今では失って命を絶たれる―――本来ならば。
けれど、光を一時的にせよ失ったその瞳孔が、青年の持つ『眼』と、真の意味で視線を合わせることはなかった。
なおももがく少女に、彼岸は呟く。
「静かにしろ」
決して言霊を使用したわけではなく、単なる音の羅列を呟き―――しかし少女は動きを止める。
「………アンタ、は………」
「大人しくしていろ。そうすれば危害は加えない」
まるで猫をあやすように、無感動な声を、彼岸は少女にぶつけた。
するとどうか。少女は―――周りを何も見ることができないというのに、表情を怒りへと変える。
「何言ってるのよ! もうこっちは危害を加えられてるし、何されるかわからないのに、大人しくなんかできないわよ!」
「ならば二度同じ危害を加えられないように黙るということを覚えろ。今度は加減を間違えて骨を1、2本いただいてしまうかもしれんからな」
「――――!」
怒りの表情のままに少女は言葉に詰まる。驚きで止まったと言うよりも、あまりに怒りすぎて止まったというほうが正しいだろうか。いずれにせよ、今の青年にはその表情の変化がこっけいでならない。
「―――だいたい、勝手につれてきて、信用しろというほうが無理な話よ! しかも一体どこに連れて行くつもり―――!?」
繰り返される少女の『口撃』にいい加減対応するのが億劫になったのか、彼岸は開いているほうの手―――左手を振り上げて、
「―――止めろ彼岸」
青年の声に、動きを止めた。
同様に、先程まで激しかった少女の動きが止まる。
言霊を使ったわけではないのに、と青年は軽く笑む。
理由はわかっている。恐怖、という奴だ。わかっているが―――しかし理解はできない。なんとも面倒なものだ。
青年の思考を他所に、二人はそれぞれの反応を示していた。
彼岸は振り上げていた手を下ろし、表情はわずかに疑念。
「なぜです? 気絶をさせておいたほうが、作業は楽に―――」
「いや、少々思いついたんだ。これからの楽しみが始まるまでの時間つぶしにはなるだろう」
青年の口元だけの微笑が、彼岸の腕の中―――その体の大きさとの比率からか、それとも先程の青年の言葉で、震えだした挙動からか、小動物のような少女に向けられる。それを知覚したわけでもないだろうに、額に汗が浮かんでいた。
「さて―――どうせお互いに暇な身だ。少々話をしてあげよう。何、こちらの目的を話すだけだ。君が聞きたい話ではないかな?」
少女はもはや答えない。ただ、聴こえる声を聞いているだけだ。
青年は彼岸に目で合図し、少女を鍵穴に『取り付け』る作業をするよう促す。
静かな少女を抱え、作業に入る彼岸を見つつ、青年は思う。
これから言う話を聞いて、あの少女は、あの少年のような反応を示すのだろうか。
愛とかいう感情のために、どんな行動を起こすだろうか。
ある意味、気絶させるよりも酷いことだとは知らず、青年は少女に語りだす。
反響した音が、青年の後ろ―――極めて太く大きな柱の四方についた、『鍵穴』に反響して響いた。
「―――以上、説明終わり。何か質問はあるかの?」
戎璽の言葉に咄嗟に反応できたやつはいない。いてたまるか、という話だ。
卓弥を見れば、いつもの間抜け面にさらに磨きがかかっているし、フェリオも似たようなものだ。隼と凌斗に関してはいつもと表情が変わらないように見えるが、それでも半信半疑、といったところだ。
ただ、沙理奈だけは落ち着いている。
そんな中で、俺は代表して戎璽に質問をしてみる。
「………ちょっといいか?」
「何かな? 深月龍哉よ」
戎璽があまりに落ち着いているためか、ふと質問する俺の方が間違っている気がしてくる。けれど、間違ってはいないはずだ。そう自分に言い聞かせて、続く言葉を吐き出した。
「つまり、こういうことか? 言霊の力を利用して、敵の本拠地近辺までワープする………?」
「かなり乱暴なまとめ方だが、的を射てはいるのぉ。その通りだが?」
さも当然のように答える戎璽。質問をしておいてなんだが、俺は戎璽に否定してほしかったのだろうか。この業界に足を踏み込んで、常識が通用しないことはわかっていたのだが。
それでも―――これからワープをすると言われて、平静を保て、というのはかなり無理があるのではないだろうか。
そもそも、なぜこうなったのか。それを考えれば物事を筋道立てて考え直すことになり、とりあえず落ち着ける、気がする。よし実行。
そう、始まりは今日の昼間だ。突然病院に現れた戎璽が、自分の部下である卓弥やフェリオたち、それと沙理奈事務所の面子に協力を求めて、敵の本拠地を叩く、という計画を、半強制的に俺たちに承諾させたことから始まったのだ。まあ俺は承諾させられるより先に勇んで承諾したのだから文句は言わないが。
その集合場所である、現在俺たちがいる港埠頭。午前11時に集合予定だったが、どうやら俺が一番だったらしく、1時間の間他の連中の到着を待っていたのだ。
2番目にやってきた卓弥という名前の変生物が、「お前な、いくら夏葉を助けたいからって早く来すぎだろ。しかしそこまでの愛が………」などという妄言めいた泣き声を発したので、作戦前にもかかわらず無駄に言霊の力を使ってしまったんだったか。同行していたフェリオが「うわ゛ーーー!! 卓弥、卓弥ー! 卓弥が牛の餌にぃィィ!」とか騒いでいたが、無視。
1分ほどでやってきた隼と凌斗によって卓弥は復活した。ちなみにこの時点で11時まであと15分ほどだった。
続いてやってきたのが宗冶狼と諷だった。俺と一緒に出てくればよかったのに、二人はあとで戸締りをしていくから、とだけ言って、先に行く俺を見送っていたのだ。
いわゆる決戦に臨む前の男女のなんたらという奴か? いや無駄な想像はやめておこう。
しかし、そう考えるとこれは禁言との最終決戦となるんだよな。RPGでいえば、ラストのボスキャラを倒しにいく直前。確かにそんな状況なのだが―――何故かは知らないけれど、普段言禍霊を倒すときと変わらない気がする。やはりゲームの中と現実では違うのだろうか。
実際、それぞれが残りの15分を待つときに話していたことは、学校のこと、最近のこと、果ては今日の夕飯のこと―――これから起こるであろうこととは、全く関係がないことばかりだ。一言で言えば、緊張感がない。
俺も―――夏葉を救えるということばかりが頭にあった所為か、現状認識が足りていなかったのかもしれない。
もしかしたら、これからの禁言への奇襲で、
誰かが死ぬかもしれない。
これまでにないほどまで、危険な戦いに臨もうとしている。そのことを忘れていたのかもしれない。そう考えていたのは、残すところあと5分ほどとなった頃。沙理奈と拓実が、つれそってやってきたときだった。
それは同時に、戎璽の到着を持って、この作戦が始まる。そのことを意味していた。
5分後。きっかり11時に、戎璽は姿を現した。
その腕の中にあったのは、子供の背丈ほどはあるであろうと思える巻物。それを抱えた戎璽は、こちらを一通り眺めて、
「これで、全部じゃな?」
その問いに答えるのは沙理奈だった。
「ええ―――とりあえず、禁言と交戦できるだけの戦力を持った所員は、これで全員です」
その言葉に、改めてこれから望むべき戦いの重大さを噛み締める。
武には何も説明していない。もう一人、武の友達で、かつて俺が進んでしまったような道を選ぼうとしていた卓磨にも。
せめて置手紙ぐらいは、と思って沙理奈に提案はしたのだが、
「何いってんの。置手紙なんて、これから死にに行くような雑魚キャラがするものでしょう。あんたは死ぬつもりなの?」
と一蹴された。
つまり、明日になって俺たちが事務所にいれば問題はないということなのだろう。
けれど多分、そこに夏葉の姿がいれば、武にも自ずと事情が知れるはずだ。俺たちに向かって、「俺に黙って姉ちゃんを助けに行くなんて水臭いですよ!」とか文句を言ってくる姿が容易に想像できる。
武をなだめるのは、また面倒だろうな。そう考えると苦笑いするしかない。
回想を断ち切るように、戎璽が巨大な巻物を埠頭の地面に下ろした。それを広げていく。
その行動に興味がそそられたのは事実だが、それでもやはり気の急きが優先されたのだろう。俺は戎璽に質問をしていた。
「ところで、移動手段はなんなんだ? 見たところ、船はたくさんありすぎて特定できないし、ヘリがあるわけでもない。そもそも、敵の居場所がわかったとはいえ、移動中に見つからない保障はあるのか? 見つかったら奇襲にはならないだろ?」
昼間の段階では思いつきもしなかったことだ。あの時は―――まぁ、なんだ。夏葉を助けられる手段と機会が手に入ったことで、少なからず浮かれていたわけで。
それに、敵の居場所が日本国内でない、つまり船などの移動手段を必要とするなら、奇襲が更に1日後になる可能性もある。もっと悪いことに、敵の本拠が例えば太平洋上の無人島なら、船が近づいた時点で奇襲でなくなる。
そう考えると―――さらに気が急いてきた。
夏葉をはやく助けたいから、奴らが夏葉を無事のままにしておくことは考えづらいから―――というのはウソになるな。
認めよう。俺は夏葉が無事だと思っていて、その前提を変えようとしていない。それでも気が急いているのは―――単に早く会いたいからだ。
うん? 俺はこんなに楽観的で色ボケだったのか?
俺が内心での自己分析に軽く自己嫌悪に陥っているとも知らず、子供大の巻物を広げ終わった―――広げてみるとやはりかなり大きかった―――戎璽は、ようやく俺の質問に答えた。
「心配するな。もちろん奇襲になるとも。敵が居を構える場所のすぐ近辺―――そこにこれから移動する」
揺らぎもしないその声。しかし、どうやって敵の本拠の近辺に移動するか。それを聞きたいのだ。
「だから、移動手段はなんなんだ?」
「お主の目の前、というよりお主の足元にあろう?」
そこで全員の視線が埠頭のコンクリートの地面に向いた。
しかし、そこにあるのは巨大な巻物の開きだ。そこに文字がびっしりと敷き詰められてあろうが、ただの巻物だ。
「………見つからないが」
「素で答えておるのか? 沙理奈、封言符について教えておらなんだか」
「え? あ、いや、そういえば教えてなかったようなそうでないような………」
いきなり名指しされてあわてる引け腰の沙理奈(珍しさランクA)のかわりに、苦笑しながら拓実が前にでる。
懐から取り出したのは、御札、だろうか。
「これが、封言符です。言霊を文字として固定化して、好きなときに発動できるようにするものです」
「つまり、3分待たないインスタントラーメンみたいなもんだヨ!」
フェリオのわかりづらい喩えはおいておくとして、俺はその札を『視』る。
成程、文字自体が言霊の力と、その力の札への定着の二つの役割を担っている、か。
「と、いうことは、これも封言符………?」
宗冶狼(大人状態)が発した疑問に、戎璽は満足そうに頷いた。
「その通り。これはちと特別製でな。わしがこの手で書き上げた『縮地』の封言符じゃよ」
「『縮、地』……?」
隼がまさか、という表情を見せる。その表情の理由は、この次の戎璽の説明で明らかとなった。
「そう。これは空間と空間をつなぐ言霊。これでわしの部下が見つけた敵本拠へと、わしら全員で移動する」
以上、回想終わり。
結論。現状認識のための記憶の再構成に、気分を落ち着かせる成分は含まれていない。
というか、最後に思い出す記憶がワープをするという妄言めいた発言だと、結局落ち着けない。思い出し損か。
「この言霊はかなりの力を使うのでな、書き上げるのに1年ほどかけた代物じゃよ。だが構成はしっかりしておる。この程度の人数であれば、問題なく発動できる」
「………縮地、か。武道における移動法とばかり思っていたが………」
凌斗は興味深げに巻物を見ている。
あまり動じていない沙理奈や宗冶狼、諷などは存在は知っていたのだろう。だが、恐らく目で見るのと体験するのは初めてに違いない。
「さて、もう11時をとっくに回ってしまった。もうすぐ日付が変わる―――いや、着く先はまだだろうが、な。その前に移動するぞ」
戎璽は言い、自らが開いた巻物の上へと乗る。
他の全員に対して、
「どうした、こないのか?」
無言で俺たちも巻物の上へと向かった。
だがそれでも俺はまだ半信半疑だ。いくら言霊が人知を超えた力を持つとはいえ、ワープなど………
「まだ疑っておるようじゃな、深月龍哉よ」
戎璽が小声で俺に呟く。
俺が無言のままでいると、戎璽は顎鬚を撫でながら勝手に話を続ける。
「それではこういう話を知っているかな? かつて人が物に名をつけたとき、物の真名を知るものとして、それを自在に扱うことができたという」
戎璽はしゃがみ、巻物の文字を手でなぞりながら言う。
「だが、物に名をつけるということは、同時に文字の名、その真名において、それらを縛ることでもあったということじゃ」
巻物の文字が、薄く発光し始めた。
「では例えば、この世界の法則―――物理法則が、その理論を構成する文字の力によって、この世界を束縛していたら―――?」
「………!」
それは、
それはつまり、
この世界は、人によって観測され、そして人によって定義されているということで、言霊によってのみ、俺たちはその束縛を逃れられるということ―――
「単なる喩え話じゃがな―――それではこれより、巻物に込められし言霊を発動する!」
薄く笑った戎璽。文字をなぞっていた右手を巻物に押し付ける。
「“我が名に於いて、封じられし言霊を従えん。我、その力を持って、望むべき点へとうつろわんとする者なり。地を縮め、天地の理に礼をし、そして我が意思のもとに存在せよ!”」
一瞬世界が反転、いやモノトーンになったような感覚。
いや、世界は宇宙で楕円で三角で幾何で無限で矮小でメビウスで矛盾で秩序で暗黒で閃光で水で火で機械で生体で。
そして世界は、目に聞こえて耳に嗅いで鼻に咀嚼して口に痛んで肌に見て骨に溶かして脳に軋んで言葉に脈動して。
およそ世界が世界でなくなった感覚を超越し踏破し殲滅し。
唐突に全てが無。
そして次の瞬間、俺は見慣れぬ森のなかに立っていた。
その日、深夜の散歩を日課としていた日比谷大吾は、港市の埠頭の近辺で妙な明かりを目にした。
50を過ぎたからだであっても、幼いころに培われた好奇心が多少なり残っていたためか。大吾はその光のもとへと行ってみることにした。
普段の散歩のコースから50メートルも行けばそこは埠頭。
けれど、大吾がその50メートルを過ぎるまでに、埠頭で見えた光は消失していた。
一体、なんだったのだろうか。このあたりで、この時間に光を発するものはない。
けれど、見間違いということはないだろう。大吾は自分の感じたものを信じて、とりあえず埠頭を進んでみることにした。
もちろん光の源はなかったが―――その代わりに、奇妙なものを見つけた。
「なんじゃぁ、こりゃ………」
それは、敷物のように広げられた巻物。
何のために開かれたのか、その巻物の中身は白紙のまま。
大吾がどうすべきか思案していると、秋も過ぎ、もうすぐ冬ということを感じさせる冷風が通り抜ける。
思わず身震いする大吾の目の前で、開かれた巻物は風に浮かびあがる。
そのまま、港市の海に落ちて、消えた。
緑。木。草。青い匂い。森。
先程味わった奇妙な感覚から復帰するのに、そう時間はかからなかった。
現状認識のために周りを見回すと、全員が何となく呆けたような表情で立っていた。ということは、
「空間移動、したってこと、か」
つまり、ここはもう敵のアジト近く。
不用意な行動はできない、というわけか。
全員が復帰したのを見計らって、戎璽が抑え目の声を出す。
「『縮地』には成功した。ここから北―――あちらにすこし進めば、敵の本拠である洞窟の入り口がある」
戎璽の指差した方向。そちらは―――単に夜だからかも知れないが、何者をも寄せ付けぬような、ここにいることに違和感を感じるような、そんな雰囲気に満ちていた。
「人払いの言霊があちこちに仕掛けられているのじゃろう。言霊師でもおいそれとはわからないほどのものが、それとなく、な」
戎璽は言いつつ、夜の森に歩を進める。
「さあ、皆覚悟はいいな? ―――行くぞ」
反対するものは、誰もいない。
夜の森を進む。その先に、何が待っているかはわからないが。
七十六話へ
言霊へモドル