番外編〜言霊戦隊〜
「キャー!!」
「ウワァーーー!!」
市街地。そこはとんでもないことになっていた。
逃げ惑う人、人、人。我先に、安全なところへと向かっていく。
「駄目です!!第一防衛ライン突破されます!!」
「こちら先発隊、銃が効きません!!――――うわぁ!!」
騒ぎの中心で、警官たちが奮闘していた。
その元凶は、怪物だった。
なんとも形容しがたい、鬼にも似た、その怪物は、応戦する警官隊の人間を次々になぎ倒した。
「もうこれ以上持ちません!!」
警官の一人が上官に言う。上官は仕方なく叫ぶ。
「逃げるぞ、一般人を巻き込まないよう、応戦しつつ、だ!」
その言葉と同時に、発砲しつつ、下がっていく。
ふと、警官隊があることに気付いた。
「・・・ふぇぇぇぇぇ」
子供がいる!!
怪物のところに小さい子供が残っていた。
怪物がそこにいき、腕を振り上げる!!
子供が大きく目を見開き、警官隊が息を呑んだ。
「っっっ、グェェェェエ!!?」
怪物が突如後ろに吹き飛ぶ。胸からは煙が出ていた。
子供が後ろを向く。そこには五人の人間が後ろ向きでたっていた。
「地球の平和を守るため!」赤い服をまとった人間が言う。
「人の命を守るため!」ピンクの服の人間が言う。
「悪と戦い、悪を討ち!」黄色のやや背の低い人間が言う。
「愛と正義を貫き通す!!」緑がいう。
「その名も・・・」青の言葉に続き、五人が振り向く。
「「「「「言霊戦隊、ゲンレイジャー!!!!」」」」」
五人の後ろで(市街地なのに)五色の爆発が起こった。
「・・・・大丈夫かい」
赤が子供に駆け寄る。というか、ポーズとる暇あるなら先に助けるべきだろう。
「早く逃げるのよ」
ピンクが子供に言う。子供は泣きそうな顔をしながら、うなずいて逃げていった。
「あれは・・・彼らは、一体・・・?」
警官隊の人間が子供を保護しつつ、言葉をこぼす。彼らの顔はスーツに隠れてみることができない。
「・・・グェェエエエエ、ゴァアアアアアァァアッァア!!!」
怪物が五人に向かっていく。
「いくぜぇ!!」緑がいう。
「「「「「“撃ちぬけ!!!”」」」」」
そういい、五人は腰につけた銃を引き抜き、怪物に向かって撃った。
「!!!!!!!・・・すごい・・」
警官隊が驚くのも無理はない。なぜなら、先ほどの銃撃では傷1つ負わすことのできなかった怪物に対して、彼らの銃はダメージを与えているのだ。
しかし、この状況は・・・
「彼らは・・・どうなんだろう、正義の・・・味方、なのか?」
警官隊が疑問に思うのも無理はない。冷静に見ると、抵抗できない相手をなぶり殺しにしてるようにしか見えないのだから。
「一気に止めだ!!!」
青に続いて、ほかの四人も銃撃をとめる。(※すでにこの状況で怪物は半死半生、戦闘開始後1分)
「ウルルゥ、ぐおぉぉぁああぁああ!!?」
怪物の苦鳴が、前を見て悲鳴に変わった。
そこでは五人が銃を重ね、明らかに止めをさそうという隊形を取っていたからだ。
「「「「「“必勝必殺、言霊弾!!シュートエンド!!”」」」」」
「ぎぎぃぃぃぃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
五人の攻撃で、怪物が消滅した。
しかし、攻撃は収まらず、怪物の後ろまで飛び、市街地に着弾した。
「「「「「あ」」」」」
辺りにいた人々が、反射的にそういったあと、爆発が起きた!!
「ぎいやああああぁあぁぁぁぁぁ!!!!!」
爆発のすさまじさに、あたりの人は寄り固まって、余波から身を防いだ。
そして、目を上げた頃には、爆発の張本人たちは消えていた。
「『謎の五人組、怪物を倒すも、街を木っ端微塵に!!』・・・・・『やりすぎた!?正義(?)の味方』・・・・・・あんたらねぇ・・・」
事務所で女性、沙理奈の声が響いていた。
女性の前には、5人が正座している。
「『怪物も仲間?壮大な狂人的テロの可能性を示唆』・・馬鹿じゃないの?『街の人にアンケート』結果は・・・・」
沙理奈が黙る。
「・・・・・・ハァ」
「そこっ!龍哉!アンタ一応、色的にリーダーでしょーが!!あんたのせいよ!!」
「責任転嫁ですよ、沙理奈さん。第一、破壊力がありすぎます」
レッドこと、龍哉がいう。隣で、同じように頭をたれたグリーン――卓弥がうなずく。
「それに、何で俺がリーダーなんですか?」
珍しく饒舌な龍哉。(たぶん不満でストレスがたまっている所為だろう)
「仕方ないでしょ、成り行きよ」
「沙理奈さん、裏で誰かと取引してませんか?」
「・・・そんなわけないでしょうが」
龍哉は聞かなければよかったと思った。たぶんビンゴだ。
「・・ま、まぁ、初めてにしてはうまくいったんだし、ねぇ」
ピンクの夏葉が言う。イエローの武が続ける。
「そうですよ、それに結構かっこよかったし」
「そこは俺もそう思うな」
と卓弥。ブルーの隼もあごに手を当てていう。
「ま、確かにな、悪くはないよ。それにお前がリーダーってのが不服なのか?むしろ幸福だろ」
「不服だ」
「文句言うんじゃない!!あたしにたてつく気?」
龍哉が黙る。ほかの4人も、沙理奈が鬼だ、ということを再確認させられた。
事の発端は一週間前。沙理奈に呼び出された5人は、唖然とした。
ちなみに5人は沙理奈に勧誘され、半ば強制的に事務所に入ったメンバーだった。
沙理奈の話を要約すると、こうなる。
『封言符で、スーツ作ることに成功した。あんたらが着て、それで言禍霊を倒せ。街に出ても顔が見られないから言霊を使える。それに、怪しまれることもない。ヒーローってことにしとけば、不思議な力使っても』だ。
という訳で、この5人は、言霊戦隊、ゲンレイジャーとなった(正確にはならされた)わけだ。
「もう一つ」そのときに沙理奈は言った。「このごろ、言禍霊の動きが活発化してるのよね・・」
兎に角昨日はその初仕事だった。市街地に出現した言禍霊(新聞での表記は怪物)を見事殲滅した。
まあ手違いもあったのだが。
「それよりも、普通に言具でやったほうが早くないですか」
龍哉の言葉に、沙理奈が返す。
「アンタ今日は妙にたてつくわね。さては・・・」沙理奈が醜悪な笑みを浮かべる。
「恥ずかしいのね?」
4人が龍哉を見る。龍哉は顔を背けた。つまり、それは・・・・
「・・・あ、は、まあ、ね、その、ねぇ・・・」夏葉。励まそうとしたのだろうが、逆効果だ。
「・・ん、あ、な、なあ、そうだよ、誰だって最初は恥ずかしがるもんだよ、な?」と卓弥。
「そうですよ先輩。要は慣れです!!」振られた武が自信たっぷりに言う。そろそろ特撮テレビは卒業しなさい、武。
「う〜〜〜〜〜ん、龍哉の言うことにも一理あるよなぁ」と隼。
龍哉は、初めて味方が見つかったとばかりに、急いで顔を向けた。
「あの登場のセリフが中途半端だからだな。もっと『希望』とか入れたほうがいいんだな」
龍哉の元気が見る見るしぼんでいった。と、通信機器が鳴る。
「・・・あんたら、仕事よ!今度はちゃんとやるのよ!!へましたら殺すからね!!」
「・・・これ、使わないとですか?」
龍哉が最後の希望を探すように、変身用の符がついた、特殊携帯をさす。
「モチのロンよ!!さあいきなさい!!!」
龍哉の希望がついえた瞬間だった。
「きゃあーーー!!!」
「くそぉ、またか・・・!!」
「防衛ライン、またも突破されます!!」
街は昨日のように大騒ぎになっていた。今度は二体の言禍霊によって。
さらに、黒マントに身を包んだ、一人の人間のような奴もいた。
「はっはっはーー!!恐怖におののけ、愚民ども!!我ら『言禍軍』にひれ伏すがいい!!」
「そうはさせるか!!」
その声に、そいつはその方向を向く。5人の人間がいた。
「「「「「“変身”」」」」」
その言霊に、携帯が反応、5人は光に包まれ、昨日の5人組へと変わった。
「地球の平和を守るため!」「人の命を守るため!」「悪と戦い、悪を討ち!」「愛と正義を貫き通す!!」「その名も・・・」「「「「「言霊戦隊、ゲンレイジャー!!!!」」」」」
「どうだ、びびったか!!」
グリーンが叫ぶ。(ちなみにさっきの「そうは−−−」もこいつ。)
「・・・・おまえら、そんなことやって恥ずかしくないのか?」
黒マントが心底心配したような口調で言った。
「「「「余計なお世話だ!!」」」」4人が言う。
「・・やっぱり、そう思うか?」
全員が(黒マントどころか、言禍霊までも)レッドを見た。
「お前、気は確かか!?」「先輩、平気ですか?」「龍哉、気を確かに保って。とりあえずあいつらを倒さないと」「確かに。それが最優先だな。・・・・やっぱ登場の言葉に問題が・・・」
「で、お前は何者だ」
ほかの四人をものの見事に無視し、レッド−龍哉−は聞く。黒マントは、それを待っていたようだ。
「フフフ・・・それならば聞くがいい!!我こそは暗黒組織、『言禍軍』が四天の一人、新藤卓真だ!!!」とマントを翻しながら名乗った。
「なんだ、お前も同類じゃないか」と卓弥。
グサッ「五月蝿い!!お前らとはまったく違う!こう、上品さが・・なんてことはどうでもいい!!とにかく、逆らうのなら・・・お前たち、やってしまえ!!」言禍霊2匹が前に出る。
「うわあ、典型的な幹部キャラだ!!雑魚に任せて自分は出てこない」俺とほぼ同年なのに、と武。
グサッ「・・・ふん、そんなことは勝ってからいってみろぁ!!!(壊)」
言禍霊が2体突進する。さっきまで沈黙していた群集が息を呑んだ。
もちろん、これからゲンレイジャーが起こすであろう惨事に対して、だが。
「“氷結の使徒よ、敵を貫け!!”」ピンクと、「“灼熱の魔手よ、敵を滅ぼせ”!!」イエロー。
あっという間に一体消滅。
「もう嫌だ、公衆の面前に出ることが耐えられない・・“正輝”」レッドと、「普通はもっとてこずるもんだけどなあ・・・“双雛”」グリーンと、「ま、いいんじゃないのか。強すぎってことで。・・“如意丸”」ブルーが言具を出し、もう一体を文字通り一瞬で倒す。
「残るはお前だ・・・早く終わらせて帰る!!」
半ば切れかけてきた龍哉。さすがに黒マント――卓真もうろたえる。
「・・・まだだ、“行け、巨化の種よ、彼らを強化せよ”!!」
卓真が言霊とともに、何かを飛ばす。それが倒され、チリになった言禍霊2体に当たる。と、
「うっそだろ、おい」卓弥が言う。
「まじで・・・・テレビみたいだ・・・」武がいう。
2体が巨大化したのだ。
「やれ、2体とも!!」
あっという間に形勢逆転し、今度は言禍霊に街が破壊されていく。
「沙理奈さん、聞いてないですよ、こんなの!!」龍哉が怒鳴る。
「いってなかったもの。・・・まあいいわ。こっちも送るから、後はそっちでどうにかして」
――無責任な上役を持つと苦労する。スタッフサービスにでも電話しようかな・・・・。
とか考えてる暇もない!!危うく龍哉は踏まれるところだった。
「このぉ、ふざけんじゃないわよ!!“永久氷結の使徒よ、敵を貫け!!”」
ピンク、もとい、夏葉がついにキレた。攻撃は直撃、ダメージこそ受けなかったものの、言禍霊の片方が倒れてくる。
龍哉のところへ。
龍哉は全速力で逃げた。さっきまでいたところに、言禍霊がしりもちをついていた。
―――危なかった。危うく食べ物とは逆の運命をたどるところだった・・・・
と、そのとき、
『みんなぁぁぁーーーー助けにきたよぉぉぉぉぉぉ!!!』
やけに低く、エコーがかかった大きな声。みると、巨大な狐がいた。「誰だ?」と龍哉が問う。
『僕は宗治狼。みんな、とにかく僕に言霊のエネルギーを送り続けて!!』
耳が痛くなる声だ。こうゆうところで現実味を出さないでほしい、と誰もが思った。
とにかく、5人は言霊のエネルギーを宗治狼に送った。
『いくぞぉぉぉぉ〜〜〜!!!』
宗治狼が二匹の言禍霊を殴り飛ばす。市街地が大破!!!あちこちで叫び声が上がる。
『一気にとどめだぁぁぁ!!!』
宗治狼の口にエネルギーが集まる。
卓弥はなんとなくこれを言う必要があると思った。
「“焼き払え!!!”」
その言葉と同時に宗治狼の口から熱線が放射!言禍霊2体を瞬殺、後ろの山をも破壊!!
「くそ!!覚えてろぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・」
卓真が消えていく。そして龍哉は、一瞬で自分が立たされている状況を把握した。
『あー、あー、君たちは包囲されている!!無駄な抵抗はやめ、市街地の破壊の罪として、おとなしく投降しなさい!!』
見ると、自衛隊のヘリや、戦車まで出ていた。
「やばいわね・・・」「こんなのヒーローじゃないって・・・」「ま、俺はこれでも突破する自信はあるけど?」「それもそれで楽しそうだな、卓弥。龍哉は?リーダーだろ?」
龍哉は盛大にため息をつく。
「“縮め”」宗治狼が小さくなった。
周りの人間が驚いているうちに、龍哉は言う。
「さっさと逃げるぞ・・・・・」
5人は煙幕を張った。それが晴れる頃、5人の姿は消えていた。
「くっ、申し訳ありません」
卓真は本拠地のボスの元にいた。
「私の失策でした。もう一度チャンスを・・・」
ボスが右手を上げた。
「いいのよ。邪魔が入るって事はわかっていたし。次に期待してるわ。行ってよろしい」
「・・・ありがたき幸せ!!」
卓真は去っていく。ボスは一人ワインを飲んでいた。
「・・・しかし、さすが我が妹、といったところかな。邪魔はうまいわね。まあ、それもいつまでもつか・・・・」
ワイングラスを一気に傾ける。そこに座っていたのは、沙理奈と似た、ほぼ同じ顔をした女だった。
「『正義の味方、指名手配!!』・・・・・・・『度重なる市街地の破壊に、内閣が乗り出した』」
5人はまた正座していた。
「・・・・いい?この汚名を晴らすまで、何度でも逝くのよ!!わかった!!?」
「「「「「わかりました」」」」」
5人は機械的に答えた。ちょっと言葉が違っていようとも、今沙理奈にたてつくのは賢くない。
「俺は人生選択を何処で間違えたんだろうか・・・・」
龍哉が嘆く。再び通信機器が鳴る。
「・・また出たか・・・姉さんのやつ・・・」
「え?」
夏葉が聞く。小声で言ったはずなのに、よく聞こえるものだ。沙理奈は感心した。
「なんでもないわ。それより、今度しくじったら、死刑・・・って言うと何度も殺しちゃいそうだから、全員何かしらのペナルティってことで。しくじんじゃないわよ!!じゃあ逝ってきなさい!!」
「「「「「は〜〜〜〜〜〜い・・・・・・」」」」」
5人は力なく立ち上がる。そして、戦いの場に(ある意味一般市民との、だが)出かけていった。
地球の平和を守るため!人の命を守るため!悪と戦い、悪を討ち!愛と正義を貫き通す!!その名も
・・・言霊戦隊、ゲンレイジャー!!!!
がんばれ、僕らのゲンレイジャー!!明日へ向かって闘い続けろ!!
続く
続かない