番外編〜言霊戦隊 -やっぱり定番!?四天王の巻- 〜




「キャー!!」

「ウワァーーー!!」

相変わらず騒がしい街。原因は、治安の悪化だけではない。

「駄目です!相変わらず我々の武器は効きません!!」

「技術開発局の人間たちは何をやっているのだ!!!」

怪物-言禍霊-と戦っている自衛隊。通常の武器では怪物にはダメージを与えられないのだ。

そのため、日本政府の怪物撃破数はいまだ0である。

ではこれまで、どうやって日本は戦ってきたのだろうか。それは、ひとえにあの者たちのおかげである。

突如、怪物をいくつもの銃弾が襲った。

それらは確実に言禍霊にダメージを与えていた。

銃弾の飛んできたほうをみた隊員たちは、悲鳴ともあきらめの声とも取れる声を発した。

「・・・やつらだ・・・破壊神が来た・・・総員撤退だーー!!!」

蜘蛛の子を散らすように逃げ出す自衛隊員。その奥で、太陽を背に立つ、5つの影。

「地球の平和を守るため!」赤い服をまとった人間が言う。

「人の命を守るため!」ピンクの服の人間が言う。

「悪と戦い、悪を討ち!」黄色のやや背の低い人間が言う。

「愛と正義を貫き通す!!」緑がいう。

「その名も・・・」青の言葉に続き、五人が振り向く。

「「「「「言霊戦隊、ゲンレイジャー!!!!」」」」」

そして爆発が起こる。

彼ら――ゲンレイジャーこそが日本がこれまで戦えた理由なのだ。実際、言禍霊に対抗する手段を政府は持っていない。
                                           うと
感謝されるべきであるはずのゲンレイジャー。だが、破壊神と恐れられ、疎まれている理由は何なのか。

「グォォォッォオオオオ!!!」

言禍霊の突進。すかさずピンクと黄色が叫ぶ。

「“氷結の使徒よ、敵を貫け!!”」

「“灼熱の魔手よ、敵を滅ぼせ”!!」

あっという間に言禍霊は半身が凍りづけに、もう半身が炎に焼かれた。

そこへむかう、赤と緑と青。

「“正輝”」「“双雛”」「“如意丸”」
                               かんぷ
現れた青竜円月刀と二双剣と棒によって、言禍霊は完膚なきまでに叩きのめされた。

そして、恒例の大爆発。

市街地が、復興されたばかりの市街地が、またも廃墟と化す。

ゲンレイジャーが疎まれる理由がこれだ。怪物からの被害よりも、ゲンレイジャーによって引き起こされる被害のほうが大きいのだ。

それを自覚しているのかいないのか、毎回派手に市街を破壊するゲンレイジャーだった。

「今日はあまり手ごたえがなかったな」

赤――龍哉が言う。

「そうだなぁ。欲を言えばもっと強いやつが良かったんだけどな」

緑――卓弥が手を頭の後ろで組みながら言う。

「それにしても、龍哉の口からそんな言葉が出るとは、な」

青――隼が言う。

「そういえば、確かに驚きですよね」

黄――武がおどけた調子で言う。

「けど、無理ないかも」

ピンク――夏葉が笑いながら言う。

「ふふ、やはり来たな!ゲンレイジャーよ!!」

声がしたほうに5人の視線が向く。そこには黒マントを着た、少年がいた。

「あ、相変わらずのやられ幹部だ〜〜」

武が皮肉を言う。黒マント――卓真はそれだけで怒り始める。

「五月蝿いっ!!だが、それも今日で終わりだ!今日こそはお前たちを倒す!!――後ろを見てみろ!!」

とっさに5人は後ろを向く。だが、そこには何もなかった。

不意に背中のほうに衝撃が走る。その衝撃で、5人は地に伏す。

「はっはっはーー!!引っかかったな間抜けどもめ!こんな初歩的な手にかかるとはな!!」

龍哉が何とか身を起こすと、言禍霊がもう一体いた。どうやらさっきの隙に乗じて、卓真が呼び出したらしい。

「まずはお前からだ!レッド!」

言禍霊の鋭利な爪が龍哉を襲う!!龍哉は先ほどの衝撃で体を満足に動かせない!!

「龍哉ーー!!!」

夏葉の叫び声が、金属と金属がぶつかる音にかき消された。

言禍霊の爪を止めていたのは、日本刀だった。

その日本刀を持っていたのは、龍哉たちと同じような白い服を着た人間だった。

「油断しすぎだで、しかも間抜けときたもんだ。まったく、こっちが恥ずかしくなってくる」

白の人間は低い声で独り言のようにこぼし、言禍霊のほうに向きなおす。
  がいあ
「“餓威亞、切り払え”」

龍哉の目に刀の軌跡が映ったときには、言禍霊は消滅していた。

「っく、覚えていろ!!」

お決まりの捨て台詞を放って、去っていく卓真。それを確認して、白が日本刀――言具を消す。

「・・・お前・・・」

龍哉の呟きが聞こえていないかのように、立ち去ろうとする白。龍哉はあわてて言う。

「ま、待て、whitestar!!」

途端に何もないところで転ぶ白。立ち上がりつつ、龍哉のほうを見る。

「・・・な、何でわかったんだよ・・・」

さっきと打って変わって軽い声。龍哉は皮肉めいた笑いをうかべ(といっても見えていないが)、答えた。

「可能性があるものを言ってみただけだ。作者がここまで間抜けだとは、俺たちが苦労するのもわかる」

whitestarは変身をといて、憮然とした表情を浮かべる。




「それで、作者が何のようなんだ?」

「沙理奈に聞いてくれよ」

相変わらず憮然とした表情でコーヒーを飲むwhitestar。龍哉は同じ質問を沙理奈にしてみた。

「ああ、人手が足りなかったし、作者を連れてくれば無敵じゃない」

暗黒の笑みを浮かべる沙理奈。それを横目で見て冷や汗を流すほわいとすたあ。作者までも意のままに操ることが出来るなんて、やはり逆らわないほうがいい、と龍哉は思った。

「訂正ひとつ。俺は無敵ぢゃない。あくまでもこの世界を限定的に操れるだけだ」

十分無敵だろうが、と卓弥は思った。

「ま、最近敵方が勝手なことばかりしてるから、それを少し制限しようか、とも思ったわけだが」

笑いながらwhitestarがこぼす。その場にいる全員が(沙理奈を除いて)、嘘だろ、と心の中でつっこんだ。

「・・・でも、作者がいれば俺たちは戦わなくてもいいんじゃないんですか?沙理奈さん」

「そりゃそうだよな。俺たちより強いんだろ?作者」

龍哉と卓弥が言う。反論したのは、沙理奈ではなくwhitestar。

「馬鹿、お前らがいなくちゃ物語がなりたたんだろーが!」

ほわいとすたあの考えを、龍哉と夏葉は見抜いたらしい。立ち上がり、迫っていった。

「・・・つまり、俺たちはお前の勝手でこうなっている、というわけか?」

「じゃあ、ここで動けなくしちゃえば、これからは好きなように出来るってことね」

明らかに殺気のこもった言葉。言霊にしたら相手を呪い殺せそうだ。

「ま、まてって。話し合おう」

「却下」

夏葉に即答で返され、汗を垂れ流す作者。

「これまでは手の届かないところにいたからな。まさに飛んで火に入る夏の虫、だ」

龍哉は言具を、夏葉は強大な言霊を、それぞれwhitestarに向ける。

「うぅ、こうなったら・・・“餓威亞”!」

whitestarが日本刀を取り出す。と同時に、二人はwhitestarに向け攻撃を仕掛ける。

「“世界輪廻停止=h」

とwhitestarの言霊が走ると同時に、世界が、文字通り止まった。

止まった世界をwhitestarのみが動き、夏葉の言霊を切り払い、龍哉の動きを言霊で止める。

「さて、10秒、と」

と、時が動き始める。言霊が消えたことに驚く夏葉と、正輝を突き出そうとした体勢で固まる龍哉をみて、他の三人は目を丸くする。

「さすがね、作者」

沙理奈だけは何が起こったか理解しているようだ。whitestarが言具をしまうと同時に、電話が鳴る。

それに出た沙理奈が、例の笑いを顔に浮かべ、言い放つ。

「また言禍霊よ。ちょうどいいわ。6人で行ってきなさい。文句は受け付けないわよ」




「はっはっはーー!!さあ出て来い、ゲンレイジャー!!今日こそはお前たちを倒す!!」

「その台詞、2回目だぞ」

卓真が声のしたほうを向くと、ゲンレイジャーがいた。

「来たな、ゲンレイジャー・・・ん?新参者か?」

whitestarを見て疑問を浮かべる卓真。

「・・・まぁいい。ゆけ!お前たち!!」

その声とともに、数十体の言禍霊が龍哉たちを包囲する。

「な・・・!しゃれになんねーぜ、これ!!」

「どうしたらいいんだろ・・・こんな数・・・」

卓弥と武の声を聞いて、卓真の笑いが大きくなる。

「この数ではさすがのお前たちでも無理だろう!!さすがは俺だ!こんな作戦を思いつくとは!!」

「もっと早く思いつかなかったのか?お前、そんな馬鹿なキャラだったっけ」

whitestarが呆れた声を上げる。

「な・・・!新参者が!!―――やれっ、お前たち!!」

その声とともに、周囲の言禍霊が一斉に龍哉たちに襲い掛かる。

「やれやれ、だな。“如意丸”――はぁっ!」

隼が言具を出し、一番近い言禍霊をたたき伏せる。

普通ならこれで決まるはずだが、喰らった言禍霊は、しかし、まだ立ち上がってきた。

「なっ・・・こいつはチト厳しいね・・・」

隼はとりあえず言禍霊との距離をあけることを考え、近づいてくる言禍霊を吹き飛ばす。

他の5人もその光景をみて、めいめいの武器を取り出し、固まって戦い始める。

だが、数と耐久力にものを言わせ、言禍霊たちは次々にやってきて、次第に押され始める。

「くそ・・・皆固まれ!――“円月覇断=h!」

龍哉を中心に円形の壁が張られ、言禍霊の侵入を拒む。

だが、いつまでもこうしているわけにも行かない。いずれ龍哉が先にダウンするだろう。

「・・・あれ?whitestarさんは?」

武が言う。他の4人もwhitestarを探すが、円月覇断の中にはいない。

「・・・あ、あそこ!」

夏葉の指した先は、言禍霊たちのど真ん中だった。

言禍霊に囲まれるwhitestar。だが、その表情はあくまで平静だった。

「whitestar、何やってるんだ!」

龍哉の声に、ようやく作者が5人に気づく。そして笑みを浮かべた。

「そか、結界を張ったか。うし、これで心置きなく戦える」

whitestarは日本刀を構え、一人しゃべる。

「龍哉、絶対円月覇断を解くなよ」

そういうと、whitestarの姿が消えた。と同時に、数十体いた言禍霊が、残り数体にまで減らされていた。

驚く龍哉たち。whitestarは先ほどの時間を止める言霊、正確に言えば言具の能力を使ったのだ。

「・・・すげぇ・・・」

卓弥が感嘆の声を上げる。見ている間に、残りの数体もwhitestarの日本刀の餌食になっていった。

「さぁ、まだやるか?」

whitestarは卓真に言う。

「くそっ、馬鹿な、馬鹿なぁ!!」

卓真は地面を踏み鳴らす。龍哉は円月覇断を解こうとするが、異変に気づく。

「―――なんてな。かかったな!!」

「whitestar、逃げろ!!」

卓真の声と、龍哉の声が響いた瞬間、龍哉たちやwhitestarの足元が光り始める。

「・・・っ、これは、言霊陣・・・」

whitestarの足が陣に縛られる。そして、地面に吸い込まれ始める。

「ふはははは!!異空間に飛ばされるがいい!!」

龍哉たちは、円月覇断のおかげで影響を受けずにすんでいた。

言霊陣とは、言霊符のように言霊を文字として地面に印し、特殊な言霊を使ったり、言霊の効果を上げたりするものである。今回の使われ方は前者だ。

「whitestar!!」

「いいか、お前ら。この陣はしばらくすりゃ消える。それまで円月覇断を解いたりするなよ」

「けど、それじゃぁあんたが!!」

卓弥が叫ぶ。

「平気だ。俺は仮にも作者だぞ?このぐらい、何てこともない」

そういうwhitestarは、もう肩まで吸い込まれていた。

「後は任せるぞ・・・」

そういい残すと、whitestarは完全に吸い込まれた。

「・・・・・・っ!!!!」

ほぼ同時に、言霊陣の効果は消えた。龍哉は円月覇断を解除する。

「っち、消せたのは一人だけ、か」

卓真の声が場違いのように大きく響き渡る。

「まあいい。一人でも消せれば十分だ。――止めを刺して来い、ガルガマン」

どこからか、急に小さな家並みの言禍霊が現れた。

その言禍霊は、まっすぐにゲンレイジャーに右拳をたたきつけた。

「やった!!!」

しかし、その言禍霊の右腕はすぐに消失した。

「・・・許さない。お前、だけは!!」

ゲンレイジャー全員から巨大な言霊の力があふれ出る。

「“我が呼びかけに応えよ、爆炎の竜、その力、ただ敵を焼き尽くすために”!!」

「“雹零の刹那、止まりし永劫、輝きしままで、打ち砕かん”!”」

武と夏葉の言霊で、言禍霊は焼き尽くされ、氷結され、消失した。

「な・・・・!!」

唖然とする卓真の下に、残りの3人が一気に近寄る。

「っく、“爆砕せよ”!!」

卓真の言霊で3人は吹き飛んだ。かに見えた。

「“刻め”」「“打ちぬけ”」

刹那の後に、卓真を襲う双剣と如意棒。

「が・・・は・・・」

衝撃に身を折る卓真に、龍哉が青竜円月刀をつきたてる。

「“切り刻め”!!」

青竜円月刀が卓真の体を縦横無尽に駆け抜ける。
        ゆりな
「がぁ・・・・・・有理奈・・・さま・・・申・・・し・・・訳・・・・・・」

卓真は爆散し、言禍霊と同じように消滅していった。




パキン。

どこかの城の、どこかの部屋で、ひとつの水晶が割れた。

「・・・卓真・・・しくじったわね・・・」

ワイングラスを持つ女が、さして落ち込んだ様子もなく、淡々としゃべった。

「まぁ、雑魚は雑魚なりに、よくやったほう、かしら?」

女――有理奈は口元に笑みを浮かべ、ワインを飲み干した。




「・・・俺たちは、これからも戦い続けるんだよな」

龍哉がふと、独り言のように話す。

「・・・あいつ、whitestarもそれを望んでたんだよな」

龍哉のもとへ、夏葉が、武が、卓弥が、隼がやってくる。

「・・・もう、迷ってなんかいられない。そうだよな、皆」

5人は頷きあう。

「やれやれ、ようやくそういってくれたか」

そこにいるはずのない者の声を聞いて、5人はその声の主を凝視する。

「その自覚が芽生えてくれるとは、俺もあんなことをしたかいがあったよ。うんうん」

平然とした表情で立っているwhitestar。何とか龍哉が問いをぶつける。

「お、まえ、死んだんじゃ・・・?」

「ああ、別に俺はこの世界にいる限りは死なないし」

「じゃ、あ、俺たちは・・・」

「ま、勘違いだな。けど、最終的にゲンレイジャーとしての自覚が芽生えたから、俺はうれしいよ。うんうん」
                            まんえん
そこでwhitestarは周りの様子に気づく。殺気が蔓延していた。

「・・・あれ?どうかしたのか・・・」

「“我が呼びかけに応えよ・・・」

「“雹零の刹那、止まりし永劫・・・」

「“双雛・・・」

「“如意丸・・・」

「“正輝・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

夕焼けをバックに、真っ赤な何かが空を染めた。




続く

続かない





おまけ




言霊へモドル